1. 日本経済の行方
(1)平成不況の底はいつくるか?-日本の経済循環からの予想。
1990年代の初めに、ある建設業団体のシンポジウムに呼ばれ、「日本経済の見通しと建設業経営」というテーマで講演をした。既に「平成不況」に突入していたが、日本のGNPは90−92年にかけて上昇しており、不況は一過性のものであり、毎年、秋に向かって景気は回復するという楽観論が支配的であった。この状況がそこから始まる20年越しの大不況になると思っていた人は、まだ誰もいなかった。
私はその講演の資料をまとめていて、日本経済の景気循環が10年の周期で恐ろしく規則的に観測されることに気がついた。まず戦前の大不況を見る。
1890年 1889年に日本最初の経済恐慌、1890年に米騒動。
1900年 翌年にかけて日本最初の金融恐慌、全国的に銀行界の混乱。
1910年 経済不況でストライキ続発。大逆事件。
1920年 第一次世界大戦の戦後恐慌はじまる。
1930年 昭和恐慌が始まる。(1930−32年)
1940年 戦時体制のため不況は検出されず。
以上の状況から、戦前の日本では、太平洋戦争前夜の1940年をのぞいて、西暦の10年ごとの刻み目の年のすべては大不況であったことが分かる。戦後の大不況は太平洋戦争で刻み目が5年ずれて次のようになった。
1945年 太平洋戦争による敗戦。日本経済は機能停止。
1955年 戦後初の循環的不況(1954−1955年)
1965年 戦後最大の不況(山一證券の日銀特融による救済)
1975年 石油危機(74年)により戦後初のマイナス成長。初めて赤字国債の発行。
1985年 「プラザ合意」による「円高不況」。
1995年 金融・財政危機の深刻化、公定歩合0.5%の超低金利政策の実施。
戦後の日本経済では、戦前に不況が観測された西暦の10年の刻み目は、逆にすべて好況が観測されている。たとえば次のようになる。
1950年 特需景気。
1960年 岩戸景気(1958−1961年)
1970年 イザナギ景気(1965−1970年)
1980年 好況(1977−1981年)
1990年 バブル景気(1986−1992年)
2000年 政府は「平成不況」の下げとまりとプラス成長への転換を声明。
(出典)拙著「建設業のISOマネジメント・システム」、彰国社、2000.3から。
このデータから見ると、わが国では、100年以上にわたりかなり正確なリズムで経済に好況・不況の波が観測されていることが分かる。従って、現在(2002年)の不況はまだ過度的なものであり、その底は2005年あたりと考えて企業では体制を準備していく必要がある。
なおここでは詳述を避けるが、昨年、アメリカの経済循環の底を自己相関による計量分析を行ってみたら、その年は2002年とでた。統計的数値は、前後に若干のバラツキがあるが、今年のアメリカ経済は、昨年と様変わりして不況感が強くなってきている。
従って、アメリカ経済の影響を強く受ける日本経済は、2002年から2005年には、眼を離せない重大な局面を迎えると考えられる。
振り返って見るといわゆる「昭和恐慌」は、経済の規模も状況も異なるが、反面、現在と非常に類似した面がある。つまり、第一次世界大戦で日本経済の規模は一挙に3倍位に拡大し大バブルが発生し、その結果、戦争終結とともに大きな不良債権の発生を見た。
それらの不良債権の処理は、関東大震災の被害処理まで巻き込み、昭和まで持ち越されて歴史に残る昭和初年の大恐慌となった。
つまり昭和2(1927)年3月の金融動乱に始まった昭和恐慌は、第一次大戦の戦後恐慌の未処理分を含む性格を持っていた上に、昭和4(1930)年には、前年の秋にアメリカから始まった世界大恐慌に巻き込まれることにより深刻化したといえる。
もし私の予想が当たり2005年に日本の大不況が来るとすると、昭和4年の「昭和恐慌」と非常に似た状況になるであろう。つまり不良債権など、1995年の不況時からの積み残しの最終処理に迫られる上に、日本の不況が、アメリカを含めて世界的規模での大不況に連動する可能性が大きくなっているからである。
さて内閣府が民間エコノミストで組織する「経済動向分析・検討チ−ム」は、2002年9月20日に、日本の景気後退期の谷は2001年末から2002年初頭にかけて通過し、2003年夏ころには、景気拡大の山になるであろう、という予測を発表した。(2002年9月21日付、毎日新聞) それ以降については述べていないが、この予測でも、2005年頃が、次の景気後退の谷になると思われる。更にこの前後には、日本の政治・経済は、かってない大きな転機を迎えざるをえないであろうと私は考える。
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