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どこへ行く、日本
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  (2)わが国は、今度も、ハピー・ネーションへの道を選ばなかった。
この道はいつか来た道。ああそうだよ、アカシヤの花が咲いてる。
 童謡「この道」から。
 昔、慶応大学を出た堀切善兵衛という人が、イギリスに留学して、有名な経済学者のアルフレッド・マーシャルに師事した。善兵衛氏は、戦前に衆議院議長にまでなった偉い人のようであるが、私は詳しいことは知らない。彼は帰国に臨んで、マーシャルに質問した。
 「先生に学んだ経済学を応用すると、日本は大国になれるでしようか?」。すると、マーシャルは答えた。「それは駄目だ。日本は資源のない国だから、残念だが、大国にはなれない。」 善兵衛氏は、怒った。「私は、日本を大国にするつもりで、先生から経済学を学んだのに、それは無駄だったのですか!」。そうしたらマーシャルは言った。
 「日本は大国(グレート・ネーション)にはなれぬが、巧い政策を施せば、幸福な国(ハピー・ネーション)になれる。」

 これは、有竹修二「昭和経済側面史」(昭和27)に出てくる挿話であるが、きわめて示唆に富んだ内容である。つづく同氏の文章を引用させていただく。

 このたびの日本の戦争は、「戦後に多くの禍根を残すとともに、時の制約を度外視し、国の発展に存する与えられたる客観的条件への顧慮なくして、いたずらに大国たるの道を急ごうとし、ついに「夜郎自大」、おのれの実力を無視した暴挙への邪道に踏み込んでしまった。・・・・日本はつねに、冷静に自らを反省し、マ教授のいわゆる「幸福なる国」(ハピー・ネーション)への道を、辿るべきであった。」(同書、河出書房,p.10)

 ここで有竹氏がいう「日本の戦争」とは、実は「第一次世界大戦」のことである。
 日本は、第一次世界大戦に参加し、何の被害も受けずに利益を享受して世界の大国に並ぶことになった。ところが戦後のバブル崩壊以後に経済的失政を重ね、その結果、「昭和恐慌」に巻き込まれた。更にその後の経済失政により軍部が台頭し、最後は敗戦となった。このプロセスを、有竹氏は上記の文章で指摘し、「幸福なる国」への道を辿るべきであった、と書いた。

 この「日本の戦争」を、「第二次世界大戦」と読み替えてみる。敗戦でどん底まで落ちた日本は、1955年以来の高度成長政策により、1980年代にはアメリカに並ぶ水準になり、更にアメリカを抜いて世界一の「経済大国」になった。しかし1980年代以降の経済政策は、失政に次ぐ失政を重ね、特に、2000年以降の日本経済の信用は先進国中の最下位にまで落ちた。

 今でも、個人金融資産は1400兆円といわれるが、一方では国家債務が1000兆円に近づいており、今の日本経済は、再び敗戦の直前のような状況になりつつある。
経済の世界は非情である。1980年代であれば、「幸福なる国」への道の選択肢はあったが、今では破局の被害を出来るだけ少なくする道しかない。同じ過ちを2度繰り返す国民は、外から見たら喜劇的であるが、当事者にとっては真に悲劇である。


(3)我国は、国債で滅びるか。
 戦後の闇市では、高利貸が繁盛していた。金利は「トイチ」といい10日で1割という高利であつた。今、日本の金利水準は史上最低となり、2年ものの中期国債では、最終的に元金を割り込むマイナスの金利が登場するという信じがたい状況にある。
 ところが一方の闇金融では、「トサン」といつて10日で3割という高利が横行しており、それ以上の金利まであるらしい。今の借金地獄は、国も個人も、どうやら敗戦直後より深刻になっている。

 国の会計は1兆円単位でいわれるため、個人の実感からは遠い。しかし日本の人口を仮に1億人とし、1人当たりの数字に換算すると、1兆円は1人当たり1万円という身近な数字になる。この分かり易い数字に直して、国の会計を考えてみると実感がでてくる。
 まず国家財政を見ると、1人当たりの年収が50万円であるのに、支出が80万円となる。
 4人家族の標準家族で考えてみると更に分かりやすい。一家の年収は200万円あり、それに対する年間支出は320万円である。その差額の120万円は主として「国債」という名の借金で賄われている。200万円の収入しかない一家が、120万円も借金してどうするのか?と誰でも思う。しかも、この借金の約半分の60万円が「国債費」と称する借金の利子と返済分である。つまり日本国という一家は、借金の返済金より多い借金を新しく借りるという恐ろしい借金地獄に突入している。
 では一家の借金の総額はいくらあるのか? 2002年度の国の借入金の総額は600兆円ある。上記の一家に換算すると、なんと2,400万円もある。毎年の収入をそのまま返済に回しても、完済までには12年かかる。ところが実際には、返すどころか新しい借金をどんどん増やしており、いまやいつ自己破産をするかの秒読みの段階へ入っているといえる。 

 この一家は、年間2,000万円の生産をしている。既に、現在の借金総額は、年間生産量を20%も超えている。ではどこまでいったら破産するのであろうか?明確な決め手はないが、年間生産高の2倍になったら、終わりであろうと私は思う。
 年収200万円で、年間2,000万円の生産を行っている中小企業の一家が、4,000万円の借金を持った時である。根拠は、今度の戦争である。戦時期のGNP(名目)と政府債務残高の関係をみると、次のようになる。

時期 GNP(名目)(A) 政府債務残高(B) (B)/(A)
昭和15年度末 394億円 310億円 0.8
昭和16年度末 449億円 417億円 0.9
昭和17年度末 543億円 571億円 1.1
昭和18年度末 638億円 851億円 1.3
昭和19年度末 748億円 1,519億円 2.0
昭和20年度末 1,994億円
     (出典:東洋経済「経済統計年鑑」 1989.6)

 昭和18(1943)年末に日本の政府債務算高は、GNPの1.3倍であるが、その翌年には、一挙に債務はGNPの2倍に跳ね上がった。そしてその次の年、日本は無条件降伏した。つまり、もはや借金で戦争を継続できなくなっていた。国家債務をGDPの2倍が限界であるとする根拠はこれである。

 このところ20年間のGNPと政府借入金の関係を見る。
時期(年度) GDP(名目)(A) 政府借入金(B) (B)/(A)
1980 240兆円 95兆円 0.4
1985 320兆円 163兆円 0.5
1990 424兆円 200兆円 0.5
1995 497兆円 284兆円 0.6
2000 500兆円 513兆円 1.0
2002 (500兆円) 607兆円 1.2
2005 (500兆円) (926兆円) 1.8
        (注1) 2001,2002年のGDPは、2000年から0%成長として設定した。
        (注2) 2005年の政府借入金は、513兆円*513/284として計算。

 つまり、2005年にかけてGDPに若干の成長があったとしても、そこでの政府借入金の残高は、GDPのほぼ2倍になると予想される。日本国としての借入金残高は、このほかにも地方自治体や、国鉄事業団の債務があり、この段階でその残高がほぼ200兆円位程度になるであろう。したがって、日本国の債務は、2005年度には間違いなく1,000兆円を超えることが予想され、GDPの2倍の水準に達するであろう。 

 日本の借金残高は、すでに国民1人当たりでは世界一の借金大国になっているが、2005年に国の借金は、総額で人口が日本の2倍あるアメリカを抜いて世界一になると思われる。
 アメリカには資源があるが、日本には資源はない。小さな島の中に人口だけ多く、しかもそこでは世界一のスピードで、現在、高齢化が進行している。




 
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