16.日本のIT革命(第2部) ―ソフトバンクとライブドア
(1)ブロードバンドの時代とは?
ブロードバンドとは、広帯域、高速インターネットのことであり、大量のデータが高速で伝送・処理できる通信サービスのことである。従来、情報産業は、情報の質と量、処理速度に応じて、通信(電信・電話・無線)、放送(ラジオ、TV)、新聞、雑誌、出版、などに領域が分かれていた。
しかし大量なデータが、瞬時に伝送・処理できる時代になると、それらの産業を区分してきた技術的障壁が消滅する。そこではまず、通信と放送の障壁がなくなる。ラジオやTVが、1日中、送り続けている音声や画像の情報は、通信の一部編入されることになる。
さらに、放送は一方向ではなく、通信と同様に双方向でやり取りする事が可能になる。このような段階では、従来、一方的に映像と音声を国民に送り続けてきたNHKなどは、民営化してNTTグループの1社になり、通信メディアの一つとして、国民の情報ニーズを吸い上げて、それに即応した情報を提供する時代に入った方が良い時代に入ったと考えると分かりやすい。
このように双方向通信により通信と放送の障壁が消えると、教育、経済、政治、医療、経営などいろいろな分野のあり方が本質的に変わる。そこで本格的なIT=情報革命が始まると考えられる。
教育に例を取ると、そこでは教師と学生は校舎、時間、場所などの拘束を受けることがなくなる。つまり、全国どこでも、いつでも自由な時間に自由な教育を教師と学生が1対1で受けることができるようになる。教師、学生の自由な会話は、チャットを通じて4・6時中できる。
経済も同じである。インターネット上のヴァーチャルな商店街で、24時間、全国の商品をいつでも、なんでも購入できる。そこで現実の世界は、「物流」だけになる。
政治は、まだるっこい間接制民主主義とは違う、直接民主主義が可能になる。国民の政治に対する権利行使は、すべて携帯電話などの端末を通じて行なうことができる。そうなれば、ムダの多い間接民主制は必要ないので、政治家の数は最小数ですみ、最小の国家を実現できる。
医療は最寄の検査機関で検査をうければ、そのデータは専門機関に伝送・解析され、最寄の適切な専門病院で治療をうけることができる。
経営では、従来、最も時間をムダにする代表であった「会議」が不要になり、すべて携帯電話かパソコンで、担当者間のコミュニケーションが行なわれるようになる、等々。
ブロードバンド時代の初期においては、CATV,ADSL,光ファイバーの技術は、企業競争における重要な要素である。しかし間もなく光ファイバーが一般化すれば、通信技術の競争から情報のコンテンツの競争になるであろう。当然、そこでは激しいM&A(企業買収)によるメディア産業の再編成が行われるであろう。
ここで述べるソフトバンクは、その時代のはしりである。最初、ソフトバンクが、テレビ朝日の買収を考え、次に楽天がTBSの買収を計画し、続いてライブドアがフジテレビの買収にかかった事は記憶に新しい。
ブロードバンドに登場してくる企業の特徴は、地道に新しい産業を作り上げるよりは、手っ取り早くM&A(=企業買収)により放送企業を飲み込んでいくことである。今、その時代が始まりつつある。
ソフトバンクは、かつては文字通りコンピュータのソフトウェアの販売会社であった。その会社が、NTT,KDDIに次ぐ第3位の総合通信会社の日本テレコムを買収して、れっきとした通信企業になった。この会社が次に放送法で許可を受けているTV会社を買収すると、コンピュータ、通信、放送の3産業を総合した、新しい情報企業となり、ブロードバンド時代の覇者になる時代が到来したのである。
続くライブドアは、東京地検の「国策捜査」を受けて挫折したが、ソフトバンクにならい、さらにそれを越えようとした企業である。まさにその故に、国家により滅ぼされたともいえる。これらのブロードバンド時代の新しい企業像を、ソフトバンクとライブドアについて見てみよう。
|