15.日本のIT革命(第1部) ―その経過とNTT
(1)21世紀のIT(=情報技術)革命とは?
●IT革命とは? ―コンピュータ、通信、情報メデイア産業の明日は?
20-21世紀の政治家は、自分の政権運営に危機を感じた時に、IT(情報技術)革命に政策の重点を求めてきたように見える。
世界的にブロードバンド時代を進みつつある今に到り、その成果がかなり顕著に現れ始めていることは面白い。
それはブロードバンド時代の最先端を行くアメリカ、日本、韓国の3国に共通している。
たとえば、クリントン政権のゴア副大統領は、クリントンより前に民主党の大統領候補となった人物である。このゴア氏は、はじめからアメリカの国家政策の柱にITを位置づけていた。そして1993年には「情報ハイウェー」構想を掲げて、政府による情報通信網の構築を提案した。
ブッシュと大統領の座を争った2000年の大統領選挙でも、IT革命はゴア大統領候補の大きな政策の柱になっていた。その結果は、今、アメリカがCATVによるブロードバンドにおいて、世界一の普及率を達成していることに現れている。もしゴア大統領が実現していたら、イラク戦争の代わりにIT産業を中心にした経済発展により、アメリカは世界の先端を走っていたであろうと思われる。
また韓国の金大中大統領は、アジア通貨危機により韓国経済が深刻な影響を受けた1999年に、「サイバーコリア21」を提唱して、韓国経済に新しい光を与えた。金大中氏は、それまで韓国の大統領が慶尚道の出身者に限られていたのに対して、全羅道出身の初めての大統領となり、新しいIT産業の振興に着目し、アジア通貨危機から離脱するための経済再建に大きく貢献した。
その成果は、現在ではブロードバンドの一般家庭への普及率において、韓国が世界一の水準にある状況に結実している。
また日本の森政権は、その始まりから国民には人気のない政権であった。しかし、その政権が2001年3月にIT戦略本部をつくり、e-Japan計画を発足させた。そのことは、現在、日本が、光ファイバーによる高速ブロードバンドにおいて、世界一の座にある基礎をつくった。
さて21世紀初頭の現在、「IT革命」という言葉は、少し古い。しかし実質的なIT革命は、「ブロードバンド革命」の形で目の前で進行しつつあり、それは間もなく、「マスメディア革命」の形を取り始めるであろう。
そこでここではその進行状況を踏まえて、あえてIT革命という古い言葉をそのまま用いることにする。
現在進行中の高速、広帯域のブロードバンドによる通信網が整備されると、コンピュータ、通信、放送の3産業において、いままでお互いを区別してきた障壁が消滅し、統合されることになると思われる。
そこから始まる新しい情報産業は、政治、経済、文化の面において、20世紀とは大きく異なる新しい時代に入るであろう。
これが21世紀のIT革命である。それは2010年代になると思われるが、その頃にはIT革命は佳境に入り、新聞、出版などを含めた情報メデイアは、現在に比べて大きく変貌すると思われる。
●コンピュータと通信系 ―頭脳と神経系の延長物の進化
人類は、文化人類学者のエドワード・ホールが言うように、肉体の部位の延長物を作り出すことにより進化してきた。(エドワード・ホール「かくれた次元」みすず書房)
例えば、その延長物とは、次のものである。
皮膚の延長物 衣服、帽子、靴、手袋、・・・
肢 " 自動車、自転車、・・・・
声 " 電話、電信、・・・
眼 " 望遠鏡、眼鏡、・・・
延長物の延長物 飛行機、船、テレビ、建築物、社会・・・
この人類が最後に作り出したのが、「人間頭脳の延長物」としてのコンピュータ(=人工知能)であった。しかし今まで作り出してきた上記の延長物と、人工知能を結びつけるためには、次に「神経系の延長物」を作り出す必要があった。それが通信系である。
この神経系の延長物としての通信系も、従来、電話、電信、TVなど、いくつか作り出されてきている。ところがそれらは、必ずしも人工頭脳に結びつけられておらず、信号形式も不整合であった。
しかも情報を送るための速度や伝送容量は、頭脳の処理速度に比べて非常に小さく、かつ遅いという問題点があった。
コンピュータの方にも、これらの神経系と接続するためには、いろいろ問題点があった。たとえば神経系の情報と接続するための規格化が遅れていた。しかしこれらの条件は、1990-2000年代にかけて急速に整備されてきている。
特に、通信技術は、21世紀に入るとCATV(Cable Television:ケーブル・テレビ)、ADSL(Asymmetric
Digital Subscriber Line:非対称デジタル加入者回線) 、FTTH(Fiber To The Home:光ファイバー家庭接続)など、新しい回線技術が急速な進化を遂げ始めた。
そのことにより、従来の20世紀における初期型の電話、無線が、急速にコンピュータ技術の発展に追いつく技術開発を始めた。
そして今、ようやく本格的なIT(Information Technology:情報技術)の革命の段階に入りつつある。
2010年頃から放送がすべてデジタル化されて、放送産業において双方向通信が本格化すると、今度は根本的な情報産業の再編成に向うと思われる。それはかつて、古い映画産業にたいしてTV業界がせまった再編成にも似ている。
双方向通信は、既に技術的な方向としては長い以前からいわれてきており、それが今、技術的な側面から完全に実施可能な段階に入ってきている。
問題は、技術ではなく、「放送の事業者」と「受信者」の新しい社会的関係を、どのように構成するかという点にある。
放送事業者は、国家政策の代弁者として、従来、公共放送事業を担ってきた。ところが民主主義国家において、双方向放送が本当に行なわれるようになれば、当然のこととして国民の生の声を直接、国家に伝える義務を負うことになる。
このような時代のIT産業は、一体、どのようになっていくのであろう?
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