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どこへ行く、世界
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1. アメリカ経済の行方―ドル本位制の終焉
2. ヨーロッパ経済の行方
3. 中国の政治・経済の行方(1) −毛沢東とその時代
4. 中国の政治・経済の行方(2) −ケ小平とその時代
5. ロシアの政治・経済の行方(1)
6. アメリカ・イラク戦争 −中東と世界の行方

7. アジア経済の行方
(1)21世紀の世界とアジアの経済
(2)マネー機能の変貌 −価値尺度を失った資本主義経済
(3)ヘッジファンドとは何か?
(4)タイの通貨危機 −アジア通貨危機の口火
(5)インドネシアの通貨危機 −スハルト「開発独裁」体制の崩壊
(6)韓国の通貨危機 ―金大中大統領による「開発独裁」体制の解体
(7)マレーシアの通貨危機 ―IMFと市場原理主義への抗戦

8. 21世紀の世界はどこへ行く?
9. アメリカはどこへ行く?(その1)
10. アメリカはどこへ行く?(その2)
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  7. アジア経済の行方
(1)21世紀の世界とアジアの経済
 20世紀の政治・経済をリードしてきたアメリカ、ヨーロッパ、日本などの先進諸国は、21世紀初頭の今、なべて深刻な不況のなかにある。そしてそれら国々の経済は、低成長、低収益、低金利でしかも先の見えない状況が続いている。

 一方、東アジア諸国は1980年以来、目覚しい勢いで経済的発展をとげてきた。水は高いところから低いところに流れるが、通貨は低いところから高いところへ流れる。80-90年代にかけて、不況の先進国から、勃興する発展途上国へ、投資機会を求めて、巨大な民間資金が流入した。

 その外貨,特に短期の民間資金が、1997年7月のある日、突然、危険を察知して、タイから逃げ始めた。その資金の逃亡は、瞬く間にアジア全域に広がり、更に、アメリカ、日本、ヨーロッパを巻き込み、世界恐慌寸前までいった。これが「アジア通貨危機」である。

 このアジアで起こった金融危機に類似した事件は、1990年代に世界の各地で発生した。例えば、92-93年の欧州通貨危機、94年のメキシコ通貨危機、98年のロシア通貨危機、99年のアルゼンチン通貨危機などがそれである。

 いま、我々の世界は、毎日、1兆-2兆ドルという1度にいくつかの国を飲み込むほど巨大規模の資金が利益を求めて、電子のネットワークの中を駆け巡っている。
 人類は21世紀に入って、いつ爆発するか知れない世界経済の地雷原を歩きはじめている。この状況を、97年の「アジア通貨危機」を例に考えてみよう。

★アジア金融危機から学ぶもの
 アジア通貨危機は、高成長、高収益、高金利が期待できる東アジアの発展途上国に対して、既に国内での投資機会が失われて、低成長、低収益、低金利を余儀なくされている日、米、欧から巨額の短期・民間資金がアジアに流入し、その資金が先行きに不安を感じ始め逃げ始めた段階で起こった典型的な金融危機といえる。

 この危機は、アジアの国々から長年かけて営々と積み上げてきた国富を一挙に奪い取り、インドネシアでは暴動が起こり、スハルト政権が崩壊するほどの深刻な結果になったし、韓国では国家債務の不履行の寸前までいった。
 日本は、この危機に極めて鈍感であったが、実は90年代後半の日本経済はアジア危機と極めて密接なかかわりを持って展開してきた。

 タイから始まった通貨危機は、程度の差こそあれ、アジア諸国に短期間で次々と波及し、更に、日本、アメリカ、ヨーロッパを短時間で巻き込む世界的な金融危機に発展していった。この危機のパターンは、市場原理主義が支配する限り繰り返される可能性が強い。

 97年のアジア通貨危機には中国の被害は少なかったが、それは中国の金融・資本市場が未開放であったため、国際的な資本取引に巻き込まれなかったことにある。

 また金融危機への対応において、タイ、韓国、インドネシアはIMFの支援を得て経済復興を行ったが、マレーシアは自力で復興に努力した。
 IMFの支援を受けた国は、超緊縮政策を強いられ、インドネシアではスハルト政権の崩壊まで惹き起こしたが、マレーシアはそれなりの復興を遂げた。つまり国の経済政策の適・不適が、国民生活に大変な影響を持つことを明らかにした事件でもあった。

 90年代のアジアに起こった通貨危機は、日本、アメリカ、欧州に飛び火して、世界恐慌の寸前までいった。そしてこの通貨危機は、21世紀型の経済危機を予告するものであり、その意味から、今一度、アジア通貨危機を振り返ってみよう。

(2)マネー機能の変貌 −価値尺度を失った資本主義経済
 21世紀型経済危機は、国を相手にしての激しい通貨戦争の形をとることが予想される。そのことは既に前世紀末の90年代における欧州、アジア、ロシア、中南米の通貨危機を通じて明らかになった。

 これらの世界的経済危機を生み出した共通原因は、「変動相場制」もしくは「市場原理主義」といったしくみであり、そのことから話を始める。

★「市場原理主義」と「ヘッジファンド」という妖怪の出現
 カール・マルクスの比喩を借りれば、今、世界を一つの妖怪が彷徨っている。その妖怪は「市場原理主義」と呼ばれ、「変動相場制」という通貨のしくみから生まれた。

 妖怪が生まれた日は、1971年8月15日、生みの親はアメリカ大統領ニクソンである。映画オーメンのように、親自身、その子が恐ろしい妖怪であることを、その時は全く知らなかった。この妖怪は成長し、1990年代になって、ヘッジファンドという手下を使って、世界中で活躍を始めた。

★妖怪は国を飲み込む規模になり、彷徨い始めた
 この妖怪の手下のヘッジファンドたちは、既に、1992-93年の欧州通貨危機でドイツ、イギリス、イタリア、スペインなどの中央銀行を相手に戦い、大勝して世界的に有名になった。

 この妖怪は95-97年にかけてレバレッジ(=借り入れ資本を利用して投機を行うこと)という武器を利用して巨大化して、97-98年のアジア通貨危機において更に肥大化し、全世界を脅かし始めた。

 その活動の規模は、1980年代には1日3-4千億ドル(50兆円)であったが、今では1日1-2兆ドル(240兆円)といういくつかの国々をまとめて飲み込むほど大きくなり、世界を彷徨い始めた。

★変動相場制がなぜ妖怪なのか?=貨幣が商品価値の尺度でなくなった!
 かつて、貨幣は商品の価値を測る尺度として、あらゆる商品の交換における秩序を作ってきた。その秩序を維持するために、貨幣自体を汎用商品=「金」とする「金本位制」が採用された。

 この「金本位制」は、第2次世界大戦後、世界の金準備の7割がアメリカに集中したため、「金」の裏づけをもった「ドル」を国際通貨とする「ドル本位制」に代わり、世界の国家間の経済秩序を維持するための機関であるIMF(国際通貨基金)や世界銀行もこのドル資金により作られていた。

 この国際通貨としてのドルが、1971年8月15日のニクソン大統領による金・ドルの交換停止により、国際的な統一的価値尺度としての機能を失った
 そのため各国通貨は、その時から「もの」との関係を失い、貨幣自体が取引される「商品」になった。各国の貨幣は国際商品として、売り買いで値段が決まることになった。そこでは買手が多ければ高くなり、売り手が多ければ安くなる。

 国の貨幣の値段が国際的に上がると、国富が増大する。急に貨幣の値段が上がってバブルになった例が80年代後半の日本であり、急に貨幣の値段が下がり、営々と築き上げてきた国富をあっという間に失ってしまったのが、90年代後半期のアジア通貨危機である。共に変動相場制が生み出した惨劇である。

★「金利」とは何か?
 貨幣には支払い機能の他に、労働力を購入して剰余価値を生み出す資本の機能がある資本としての貨幣が、ある期間に生み出す剰余価値の期待値が「金利」である。

 貨幣が商品価値から切り離されたため、金利も同時に価値の裏づけを失い、貨幣を売り買いする際の目安に転化した。更に今ではドルを含めて各国通貨は、中央銀行の統制を離れた電子的な記号になり、世界中の通信網の中の取引で回り始めた。

 ここにヘッジファンドという妖怪の手下たちの活躍の場が出てきた。それが市場原理主義の本質であり、それが90年代に世界的な通貨危機を頻発させた。

★頻発する通貨危機―通貨・金融の事件の裏で増殖するヘッジ・ファンド
 1990年代には、特に発展途上国において外国からの資金借り入れが増加して、そのために経常収支の赤字が大きくなり、通貨危機となる事件が頻発した。
 そしてこの事件の裏で、ヘッジファンドが活躍し、彼らの事業規模を拡大した。しかし、一方、ヘッジファンドの方にも被害が続出し、混乱の規模も世界的に拡大した。代表的な金融危機となった事件を次ぎに挙げる。

90-91年 アメリカで大銀行倒産の危機
92-93年 ヨーロッパ通貨危機
94年 メキシコ通貨ペソ急落
債券市場の大混乱
95年 米ドル急落
日本の金融システム危機の深刻化とジャパン・プレミアムの急騰
97年

タイ通貨バーツの急落を発端とするアジア通貨危機の拡大
ニューヨーク・ダウ史上最大幅の暴落
日本で日産生命、三洋証券、北拓、山一證券の連続破綻

98年 ロシア通貨ルーブル急落
ヘッジファンド危機、LTCM破綻
大手米銀、証券会社がロシア関連取引とヘッジファンドで巨額損失
99年 アルゼンチン通貨危機
01年 アメリカの大手エネルギー企業・エンロン破綻、アメリカのドル信認の危機



 
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