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  (16)地域リハビリの活動を考える!(2)
★地域リハビリ介護とその問題点
●地域リハビリテーションとは?  
 地域リハビリテーションという言葉は、WHO(世界保健機構)が1977年に提唱したCRB(Community based Rehabilitation:リハビリを基盤にした地域社会)の訳語である。 同機構では、その概念を、「地域資源を用いて、地域レベルで行うリハビリ活動において、障害者とその家族を含む地域全体が参加して行われる方法である」と定義している。

 日本には障害者のリハビリ活動を地域レベルで行ってきた社会的基盤や実績がほとんどない。そのため、地域リハビリという概念自体がすぐには理解され難いが、2000年から実施が始まった介護保険制度にはこの概念が取り入れられており、今、全国でその取り組みが始まっているところである。
 
 わが国では、1991年に日本リハビリテーション病院協会が、地域リハビリテーションのことを次のように分かりやすく良い定義をしている。
 
「障害を抱える者や老人が、住みなれたところで、そこに住む人々と共に、一生安全に生き生きとした生活が送られるよう、医療や保健・福祉及び生活に関わるあらゆる人々が行う活動のすべてをいう」

●リハビリテーション医療の特徴とその対象
 地域リハビリとその問題点を理解してもらうには、リハビリ医療の特徴をまず述べるのが分かりやすいであろう。
 在来医学の主流は、「病気」の「治療」であり、薬物治療が基本であった。これに対してリハビリテーション医療においては、その対象は基本的には薬物治療が効かない肉体的・精神的「障害」である。しかもその障害を克服し改善して通常の人間生活に近づけるためには、患者自身による生涯かけての取り組みが必要になる。
 
 そこでは病気―治療―回復といった通常の病気のサイクルに対して、病気―障害―リハビリという全く異なるサイクルになり、しかもこのサイクルは、生涯リハビリ段階で回り続ける特殊なサイクルとなる。
 これを従来のように病院医療を中心に考えると、脳卒中者も病院に通・入院してくる一般患者と同様に対応すればよかったが、居宅介護が中心になりその中に医療が位置づけられるようになると、在来の医療やリハビリに対する考え方が根底から変わることになる。

 つまり地域リハビリでは、居宅の脳卒中者が生涯かけて取り組む「障害」の克服・改善という気の遠くなる仕事が医療の対象に取り込まれたのである。
 従来の脳卒中者に対する医療は一般病院もリハビリ専門病院も共に、退院までに達成できる範囲をリハビリの目標として設定して訓練を行えばよかった。ところが「居宅リハビリ」では、その医療の最終目標をどこに設定したらよいか分からなくなるのである。更に、リハビリの対象として、交通事故や脳卒中により機能障害や能力低下を招いた患者と、老齢化のために機能障害や能力低下を招いている老人を区別することが適切であるかどうか、という疑問が生じてくるのである。

 いま少し問題を正確に設定してみよう。
リハビリの対象となる「障害」(disablement)は、次の3側面で考えられる。
 @ 機能や形態の障害(impairment)、
 A 能力低下(disability)
 B 社会生活上の不利益(handicap)

 脳卒中者の例で考えると、上記の@は、退院後の「居宅リハビリ」により大きく改善することを期待することはほとんど出来ない。
 残るAとBが、「居宅リハビリ」によって改善が期待されるが、脳卒中者も退院後は年を追って老齢化していく。このことを考えると、「居宅リハビリ」の目標も、障害の克服・改善よりは、退院時までの機能改善レベルを維持することが重要になる。

 勿論、個人がリハビリの目標として機能改善を設定することは歓迎すべきことであるが、ここで述べるのは、一般的な最低レベルの設定についてである。
 しかしこの最低レベルの設定において、居宅リハビリの目標を機能レベルの維持とすると、地域リハビリの様相は一変してくる。

●介護保険による居宅介護サービス
 介護保険の制度が2000年から実施に移された。それにより介護保険加入者を対象にして、従来、病院の施設を中心にして行われてきた老人介護・リハビリを、老人・障害者が居住する居宅を中心にした地域介護サービスに置き換えていく活動が始まった。
 
 介護保険制度には、居宅介護サービスとして、次の15種類のサービスがある。
 ▲家庭訪問サービス
(1)訪問介護    ・ホームヘルプサービス
(2)訪問入浴介護  ・要介護等の高齢者宅へ訪問による入浴サービス
(3)訪問看護    ・看護婦等が家庭を訪問して看護支援
(4)訪問リハビリ   ・要介護等の高齢者宅へ訪問による機能訓練
(5)居宅療養管理指導 ・医師、歯科医師、薬剤師等による療養上の管理
 ▲日帰り通所サービス
(6)通所介護    ・デイサービス
(7)通所リハビリ  ・病院等での機能訓練(デイケア)
 ▲施設へ短期入所サービス
(8)短期入所生活介護 ・ショートステイ
(9)短期入所療養介護 ・老人保健施設等での医療ショート
 ▲特定の介護サービス
(10)痴呆対応型
     共同生活介護 ・痴呆性高齢者グループホーム
(11)特定施設入所者
     生活介護  ・有料老人ホーム、ケアハウス等での介護サービス
 ▲福祉用具の貸与・購入、住宅改修
(12)福祉用具貸与  ・車椅子等の貸付
(13)福祉用具購入費の支給 ・入浴、排泄等の用具購入費の支給 
(14)住宅改修費の支給 ・手摺設置、段差解消等の改修費の支給
 ▲居宅介護支援
(15)ケアプランの作成 ・介護サービス計画の作成 

 上記の介護サービスには、従来からの老人に対する福祉と保健・医療の2つの流れが並存してサービスの仕組みを複雑にしている。
 例えば、福祉系のホームヘルパーの訪問介護や入浴介護に対して、医療系の訪問看護や訪問リハビリがある。また施設としても老人ホームにおける日常生活のデイ・サービスに対して、病院の機能訓練を中心にしたデイ・ケアがある、といったものである。

 リハビリを例にとってみると、理学療法は物理的な機能回復をねらいにしたものであるが、作業療法における「作業」は、日常生活に必要な目的や行為を含み、日常生活への適応能力の回復がその目的の一つに含まれている。
 特に「居宅リハビリ」の目的を、リハビリ専門病院からの退院レベルの機能維持に置くと、「居宅リハビリ」と「訪問介護」の区別を、提供するサービスの内容によって行うことは非常に難しくなる。
 また、リハビリの立場からみて、デイ・ケアとデイ・サービスを無理に区分する意味もなくなる。現に、デイ・サービスの施設で療法士が常駐する施設も登場してきている。

 つまりリハビリの概念を、本来の広い意味に解釈して、しかも居宅介護サービスを中心にしたリハビリ体制を考えると、上記の15種類の細かいサービスの区分はほとんど意味を失ってくるといえる。
 出来るだけ早期に、老人保健法と老人福祉法の一本化と介護制度の簡素化が望まれる。そのことを前提にして、最後に介護保険制度における「通所リハビリ」と「訪問リハビリ」の制度について述べる。

●通所リハビリ・サービス
 上記の居宅サービスの内の通所リハビリ・サービス(デイ・ケア)は、在宅の要介護老人が、日帰りで心身の機能を回復させ、日常生活の自立を助けるために、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士によるリハビリが行われる介護老人保健施設、病院、診療所などで受けるサービスである。

 その事業主体は、医療法人、社会福祉法人、個人等の病院診療所などである。「病院」から「家庭」に復帰するまでの中間的な存在であることから「中間施設」とも呼ばれ、1986年に制度化された。

 これに類似したサービスが、通所介護(デイ・サービス)である。共に介護保険制度以前に作られた制度であり、リハビリ・サービスが老人保健法による制度であるのに対して、デイ・サービスは老人福祉法に基づいたサービスである。
 しかし居宅介護を基本にした介護保険の制度のもとでは、両者を統合したほうがよりサービスの向上に繋がるという見解も強くなっている。

 デイ・サービスのほうには従来はなかった療法士による専門的リハビリ機能をもつデイ・サービスの施設も出てきている。また通所リハビリのほうにも、デイ・サービスにおけるADL(日常生活動作)の領域のリハビリが必要になっており、介護保険制度の下では両者は統合する方がよいと考える。

●訪問リハビリ・サービス
 訪問リハビリは、改正前の老人保健法においては、寝たきり老人についてのみ認められていた。これが介護保険制度により居宅リハビリの制度として認められることになった。

 しかしこのサービスは、病院、診療所については、特に申し出でがない限り、都知事の指定があったものと見做されることになっている。そのため、個別機関についてのこの制度の有無は、個々の病院に問い合わせてみないと分からない。

 現在、リハビリ療法士の数は圧倒的に不足しており、通院リハビリにおける施設の療法士さえその確保が困難な現状では、居宅リハビリ・サービスは、実際には、まだほとんど行われていないのが実情と思われる。
 更に、その実情も明らかにされていない。

 訪問リハビリの場合、リハビリ・サービスの対象となる障害者の範囲を、寝たきり老人から居宅の障害者全体に拡大したことは、大きく評価できる。
 しかし、障害者の個々人の生涯つづく自主リハビリの中のどこまでを訪問リハビリ・サービスの対象とするかを決めないと、現実として膨大な需要にほとんど応じ切れないことは明らかであろう。

★地域リハビリと市民活動
 わが国の高齢化率(=65歳以上の人口の割合)は、2000年の国勢調査では総人口の17.4%を占めており、更に「団塊の世代」が高齢期を迎える2010年代には25%を越えると思われている。日本の10年先、4人に1人が65歳以上の高齢者という世界は、多分、人類が過去に経験したことのない初めての世界になるであろう。

 当然、障害者の数も激増すると思われる。私は、自分自身が障害者の1人としてこのような時代にどのように人間的な生活ができるかを最近、いつも考えるようになった。その一つが本節のテーマである。

 最近のTVの解説などを見ると、この時代には4人のうち1人が老人で、1人が子供ということで、2人の働き手が2人の働かない人を養うことになる。しかも老人の10%程度が障害者ということになると、未来社会は暗澹たる姿になるとした悲観論も少なくない。
 
 私が健常者であったら、多分同じように日本の未来に対して暗いイメージを持ったと思う。しかし自分で車椅子生活をしてみると、不思議に未来社会に対する暗いイメージが消えてくる。
 昔、第一高等学校の学生であった藤村操という人が、「大いなる悲観は、大いなる楽観に通ず」という有名な遺書を残して日光華厳の滝に投身し、日本中に衝撃を与えたことがある。

 私の楽観論は、それほど哲学的なものではない。病院に入院中、障害者が他の障害者を助ける姿を少なからず見たからである。歩ける患者が車椅子を押してあげている姿を見た。食堂では、手が不自由な患者に、若干手が動く他の患者が牛乳パックの口を開けてあげる姿を見た。
 これらは小さなことであるが、自ら障害を持つ人がより重い障害を持つ人への無償の愛の奉仕とでもいえるものと私は思う。

 話しが飛躍して恐縮であるが、私は今、フラワー・パーク「アンジェ」を、障害者や老人の方々の新しいリハビリ場として利用させてもらうことを真剣に考えている。勿論、健常者の人々の利用の少ないシーズンや週の中の空いている日時を選択しての試みである。

 その際に、障害者や老人が介護士や療法士の直接的介護によりフラワー・パーク・アンジェの中でリハビリをするだけではなく、障害者や老人がお互いに助け合ってリハビリを行い、介護士・療法士の方々には指導と支援をしてもらうようなリハビリが出来たら素晴らしいと考えている。

 たとえば花一杯のフラワー・パークの中で、車椅子の人は立ち上がって見る、立ち上がれる人は歩いてみる、歩ける人は他の人の車椅子を押してみる、できたら寝たきりの人もストレッチャーから車椅子に移って、アンジェの木製ベンチに座ってみる。
 
 これらの障害者の介護やリハビリを、障害者同士が助け合ってやってみる。その助け合いの介護自体がリハビリになると考えるのである。勿論、全体的な介護・リハビリの指導は、療法士、看護士の方に付き添ってもらうことが前提となる。

 地域リハビリ介護には、通院サービスを受けられる施設があるが、それらは病院内の施設と同じで、すべて屋内でかつ小規模なものである。これに比べると、アンジェには、手摺のついた階段もスロープもある。砂利道もあれば砕石、簡易舗装、土、砂、芝生など、すべて自然のままに完備していて、しかも危険がないように作られている。ここで障害者同士が助け合いながらリハビリを行うことが出来たら感動的な情景になるのではなかろうか!

 2010年代の高齢化した日本の社会が、高度成長期のように利益を中心にした考え方で構成されたら、働けない老人や障害者は疎外され、若者は老人や障害者の介護のために働かされるという被害者意識を持ち、互いに対立する悲惨な社会になるであろう。これに対して、老人でも働ける人は働くし、若者でも障害を持った人は社会的な保護を受けるといった愛を中心にした世界が構築できたらすばらしい。

 10年先、日本は間違いなく世界一の高齢化社会を迎える。このとき、幸せな社会にするか、それとも悲惨な社会にするか、と聞けば、誰でも前者を選ぶ。
 しかし在来のGNP優先の考え方を取る限りは、後者の道をたどるしかない。
 地域リハビリの小さな活動を通じて、前者の道を少しでも多くの人に分かってもらえるようにしたいものである。




 
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