アラキ ラボ
脳卒中の記録
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  (15)一般道路での歩行開始
★こわい道路の歩行訓練
 闘病も2年目に入ると、生活の様式に一つの形ができる。この病気は、最早これ以上は治らないと諦めのような感じがでてくる。リハビリも最初の頃は、自分の能力の限界が分からないのでいろいろなことを試みてみるが、発病から1年も経つと自分にできるかどうか、やってもみないのに大体、分かるようになる。これは全く良くないことである。

 12月のはじめ、車椅子を高さ80センチのものから、90センチに変えた。そして前より頑丈なものになった。新しい車椅子を押して、一人で私道から自動車が通る一般道路へ初めて出てみた。わずか10数メートルではあるが、自動車が走る道路を歩くのは寿命が縮む怖さである。そこをゴキブリのように道の隅にへばりついて歩いた。
 もはや恥じも外聞もなかった。そこを抜けると、車が通らない長い道路にでる。そこまで行ってほっとした。車が通らなければ、安心して1人で歩行できるようになる。

 脳卒中者が道や車を怖がるのは、健常者のように咄嗟のときの対応ができないからである。急に何かが起こると、手足の方が勝手に縮んでしまい、対応が出来なくなる。たとえば、横断歩道の真ん中で信号の色が変わると、健常者であれば急いで渡りきればよい。ところが脳卒中者はこれが弱い。驚くと、急に手足が勝手に硬直して動けなくなるのである。

 車が通らない舗道の長さは、往復700歩あった。2往復すると1400歩になる。
Angeの中が、途中を入れて1800歩である。舗道を、朝、昼、夕方の3往復歩くと、1日の総歩行距離は6000歩になる。これは2キロをかなり上回る距離である。
 この距離を12月の始めから、車椅子を押して、猛然と歩き始めた。1月位の間に効果は、かなり顕著に現れた。自分でも判るほど、足がしっかりしてきたのである。

 更に副次効果として、寒さに向かって上がりかかっていた血圧が下がり始めた。月平均で160位になるところが、140位に平均で20位下がった。これは大変な効果である。病院行けば、薬が増量されるだけで、良いことはなにもない。

★装具の重要性と脳医学の遅れ
 車椅子を押して行くため格好は悪いが、杖を使わなくなった。そのため時には杖なしで道路上を少しではあるが歩いたりする。これは少し前までは、考えられないことである。ところが大きな問題も生じた。プラスチックの装具をつけて長い距離を歩くため、足の横に「たこ」ができて、痛くて歩けなくなってしまった。療法士の梅津先生と相談して、装具の小指側を切り、親指側をフエルトで保護してもらうことになった。その修理の1週間、今一つの小さい装具で過ごすことになった。
 小さい装具は、足の指の部分と足首の部分のプラスチックがない。その部分は、素足で体を支えるわけであり、より人体機能が発揮しやくなるが、足の負担は当然大きくなる。従来もリハビリの中で、そのレベルの高い装具になれる努力をしてきていた。今回は1週間、その装具で生活することになったわけで、最初は丁度良い機会だと思っていた。しかし実際にこの装具による生活を始めたとたんに、様相は一変してしまった。

 今までは、家の中はちょっと何かに触れば自由に移動ができたのに、それも大変になってしまった。足の指はストレスで内反して縮こまり、外の道やフラワー・パークを歩くなど夢の又夢になってしまった。足は装具のバンドでうっ血してはれ上がり、発病当初の状態に一挙に戻ってしまった。脳卒中者にとって、病人に合った装具がいかに重要であるかを思い知らされる1週間であった。

 ところがこれほど重要な装具なのであるが、その社会的認識も非常に低く、そのために医学の発達から取り残されている感じを強く持ったことも確かである。多分、装具の歴史は、整形外科の中で作られ、それを脳外科の方でもリハビリに利用するようになったのではないかと思う。ところが、装具の機能はその2つは、全く異なるのである。

 例えば、交通事故で足を切断した人を考えてみる。そこで装具として義足をつくり、後はそれに慣れるようなリハビリを行い、生活の中で義足に慣れていく。失われた足は戻らないが、足をコントロールする頭の機能は正常なので、多くの場合、義足をつければ、杖なし歩行が可能になる。

 脳卒中者の場合は、これとは全く異なる。足の形状や機能はいきているのに、それをコントロールする脳細胞が死んでしまうのである。そのため装具は、脳のコントロール機能を他の脳機能が代替することを補助してやる手段になるものである。そのため義足のように固定するものではなく、リハビリの段階に応じて取替え発展させてやる必要がある。つまり脳外科の仕事は、発症のときの処置だけではなく、代替機能の発達を促進し、それに相応しい装具などを脳卒中者に提供してやることなのである。ところが現在の脳外科には、このような医学的役割や機能が全くない。したがって、脳卒中者の装具も、整形の場合と同様に、健康保険の対象となるのは、最初にそれを作るときだけである。
 装具の作成や改造は、恐ろしく高価である。脳卒中者はやむを得ず、最初の装具で我慢するか、保険が適用にならない高額な費用を自費で負担することになる。

 私の場合、療法士の梅津先生に頼んでいただき、1週間を待たず、改造装具を宅急便で返送してもらった。早速歩けるようになり、幸せがもどってきた。


 
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