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(2)経済成長路線への転換
★高度経済成長へ
中国は78年2-3月の第5期全人代第1回会議で、1度、経済10ヵ年計画を発表した。しかしその計画は、1年後の79年6-7月の第5期全人代第2回会議において全面的に修正された。79年の華国鋒の報告によると、2年間を調整期間として、この間に農業、軽工業、重工業の各部門が均整のとれた発展を遂げ、蓄積と消費がバランスを保つようにした後、81年の第5期全人代第4回会議で第6次5カ年計画(81-85年)を審議することになっていた。これと並行して新しい81-90年の長期10ヵ年計画の策定も始まった。
中国は、59年以後、総合的な経済統計を一切発表しなかったが、79年6月、20年ぶりに「1978年の国民経済計画実施結果についての公報」を発表し、つづいて国家統計局は79年度の経済実績を発表するようになった。
そこでは、農業が依然として国民経済のネックになっているばかりか、軽工業、紡績も需要に追いついていないこと、燃料、交通輸送も十分ではなこと、高コスト、低品質で、ロスが多く、利潤が少ないこと、基本建設は件数が多く手を広げ過ぎていること、など、いろいろな問題点が明らかにされた。
78年12月の11期三中全会から、党はまず国や省・県などにおける所有制ならびに集団所有制の下での、個人・集団・企業の経済的自主権を大幅に拡大する方向をとった。そこでの貧富の差の拡大は、やむをえないものとした。
政治権力と経済組織を一体化した人民公社は、行政単位としての郷政府と、自発的意思による参加を原則とする農工商連合企業などの経済組織に分離・解体された。農家は生産隊と一定の生産契約を結び、超過分は自由に処分できる各戸請負の生産責任制が急速に普及した。資本主義を生み出す源泉として禁止されてきた個人や集団による運輸業や軽工業が奨励されるようになった。また食料中心主義から多角経営、専門経営への転換が奨励され、才覚と勤労によって富裕になった農民は、新しいタイプの農民=「万元戸」として表彰されるようになった。
市場原理が大幅に導入され、企業・集団間の競争が奨励され、都市の数千万人の失業者が個人企業や小規模の手工業に吸収されて、失業率は79年の6%から84年には1.9%に減少した。先進国の科学・経営技術や国際市場競争に追いつくため、1980年に開放政策を掲げて設置された経済特別区(深?、珠海、汕頭、厦門)、1984年に設置された経済技術開発区(大連、天津、青島、上海、広州など14の沿岸都市)などが西側諸国や華僑の資本・技術を導入したり、また合弁事業として建設された。
★経済成長の80年代
70,80年代の中国のGNPを他国と比較してみると次表になる。
(出典:CIA統計、*から再引)
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GNP(10億ドル) |
成長率(%) |
年号・代 |
70 |
80 |
90 |
70年代 |
80年代 |
世界 |
11,600 |
16,400 |
21,600 |
3.5 |
2.8 |
アメリカ |
3,176 |
4,190 |
5,465 |
3.2 |
2.8 |
日本 |
859 |
1,386 |
2,115 |
4.7 |
4.3 |
中国 |
75 |
154 |
364 |
7.5 |
9.0 |
ソ連東欧 |
2,148 |
2,836 |
3,142 |
2.8 |
1.0 |
東アジア圏 |
1,220 |
1,954 |
3,233 |
5.5 |
5.2 |
この表を見ると、ドルに対する元のレートが安いため、GNPの規模は小さいが、成長率は、他国が80年代にすべて成長率が70年代より減少しているのに対して、中国のみ大幅に増加していることが分かる。それは、他の東アジア圏の諸国に対しても云えるが、特にソ連・東欧の社会主義諸国に対する違いが注目される。
この中国の成長率の伸びは、輸出に依存するのが大きいことが、次表から分かる。
(出典:International Financial Statistics.*から再引)
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輸出額(10億ドル) |
伸び率(%) |
年号・代 |
70 |
80 |
90 |
70年代 |
80年代 |
世界 |
949 |
1,660 |
2,361 |
5.7 |
3.6 |
アメリカ |
125 |
253 |
346 |
7.3 |
3.2 |
日本 |
49 |
124 |
203 |
9.7 |
5.0 |
中国 |
17 |
13 |
76 |
-2.2 |
19.0 |
東アジア圏 |
98 |
244 |
572 |
9.5 |
8.9 |
この80年代の高度成長を、生産、販売、投資の面から見た表を下にあげる。
(出典:「中国統計年鑑」。*から再引)
年号 |
80 |
90 |
実質伸び率 |
国民生産総額 |
4,470 |
17,695 |
7.6 |
国民収入 |
3,688 |
14,384 |
7.4 |
社会総生産額 |
8,534 |
38,035 |
8.8 |
工農業総生産額 |
7,077 |
31,586 |
8.8 |
農業総生産額 |
1,923 |
7,662 |
7.6 |
工業総生産額 |
5,154 |
23,924 |
9.3 |
社会商品販売額 |
2,140 |
8,300 |
7.3 |
固定資産投資額 |
911 |
4,449 |
9.8 |
*小林実、呉敬l「中国 ―高成長経済への挑戦」日本経済新聞社、1993)
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