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(3)21世紀のケ小平の夢―中国は世界一の超大国になるか?

 中国の人口は、2000年現在、約12億7千万人、2004年のGDPの総額は13兆6515億元、1人当たりの平均国民総支出は10,749元である。この1人当たりGDPを2004年の現実レートである1ドル8.28元で計算してみると、僅かに1,298ドルにすぎない。
 2000年現在、同じ程度のGDP水準の国を探すと、エジプトが1,490ドル、キューバが1,404ドル(ただし、GNI)であり、ほぼこれらの同じ水準にある。
 これは明らかに中国経済の過小評価であろう。

 しかし現状で、中国経済において目覚しい発展をとげているのは中国の沿岸地域であり、これら沿岸地域の目覚しい発展の一方で、内陸地域は大きく取り残されている。また市場経済の目覚しい発展に比べて、政府系企業の多くは依然として非能率なままで取り残されている。このことから21世紀における中国発展の鍵は、これらの国内に残されている地域、産業や企業の非効率部分の格差を、今後いかに解消していくかにかかっているといえる
 そこで西部と東部のGDPの地域格差を図表-6に揚げる。これを見ると、中国経済は地域差をなくする開発投資により、大幅なGDPの増加を期待できることが分る。

図表-6 地域別名目1人当たりGDPの推移(単位:元)
   
(出典)「中国統計年鑑」(李瑞雪、他著「中国経済ハンドブック」から作図)

●「西部大開発」の開始
 中国の文明は、古来、西部地域から起こって東へ進み、そして大帝国が建設されるという筋道をとってきた。図表-6を見ると、市場経済の導入により東部地域では、21世紀の始めに1人当りGDPは大きく伸びたのに、西部地域は経済発展からとり残されており、GDPも1人当たり5000元を割り込むという低水準にあることが分る
 
 中国共産党は、地域均衡経済の発展の理念を掲げて、50-70年代にかけて国家主導により西部地域へ大規模な近代鉱工業の移植を行い、重工業を中心とする計画投資を進めてきた。そのため、特に西部地区には軍事産業、資源・基幹産業を中心にした重要な産業配置がなされてきた。この政策の結果、50年には西部地区の鉱工業生産が総生産に占める割合は9%であったものが、78年には45.6%まで増加していた。

 しかし市場経済の積極的導入が始まった90年代以降は、国有企業と基幹産業を中心にした西部地域は再び、2重の意味で取り残されることになった。そこで21世紀に入り、積極的な西部開発への取り組みが始まった。
 2001年8月には、西部開発の指導チーム事務局の国務院西部開発弁公室が、「西部開発総合企画」の5ヵ年計画を発表した。それによると21世紀に入り、国を挙げての西部開発のプロジェクトが開始されている。それは市場経済と計画経済が組み合わされた新しい取り組みであり、もしそれが成功すれば、「社会主義市場経済」の新しい方法論を作り出すことになると思われる。

 この計画によると2001年から5年間で西部大開発戦略が軌道に乗り、大きな3つの経済圏が形成されることになっている。
 そこでは巨大な鉄道、道路網、西安空港の拡張、新疆タリム盆地から上海まで天然ガスの輸送パイプラインを敷設する「西気東輸」プロジェクト、1993-2009年で完成を目指す世界最大の「三峡ダム」と発電計画プロジェクト、西部地域の豊富な水資源や化石燃料資源を利用した発電所の建設と電力利用の「西電東送」プロジェクトなど、大型プロジェクトとそれらを通じての国有企業改革や意識改革という「一石二鳥」の計画が目白押しに進行している

●ケ小平の21世紀の夢は驚くべきものであった! 
 1980年代にケ小平は、中国経済の3段階発展論を提起した。
  第1段階は、1980年の1人当たりGDPを1988年までに2倍にすること。
  第2段階は、1988年の1人当たりGDPを2000年までに2倍にすること。
  第3段階は、21世紀の半ばに1人あたりGDPを5000ドル台にして中進国の仲間入りを果たすこと。
     (李瑞雪ほか「中国経済ハンドブック2004」全日出版、87頁)
 このケ小平の夢と実績値の関係を図表-7に示す。

 
 図表-7 ケ小平の夢は実現したか?(単位:元)
ケ小平の夢(GDP)
実現値(GDP)
達成率
1980
460
460
-
1988
920
1,355
1.47倍(達成)
2000
2,710
7,086
2.61倍(達成)
 

 ケ小平の第1段階の夢は、1988年の国民1人当たりのGDPを1980年の2倍にすることであった。その結果は、図表-7に見られるように、920元の目標値に対して1,355元となり、1.47倍という達成率になった。この数値は名目値であるから実際にはインフレによる減価分を修正する必要があるが、達成率が1.47倍であれば見事に目標をクリアしたと考えてよいであろう。 

 第2段階の夢は、2000年の1人当たりGDPを88年の2倍にすることである。88年の1人当たりGDPは1,355元であるから、2000年の目標値は2,710元になる。この結果は7,086元であるから、これもインフレを考慮しても完全にクリアしたといえる。

 第3段階の夢は、21世紀の中葉に1人当たりのGDP 5千ドルを実現することである。
 これは2050年という随分先の話であり、今の時点で実績値を示すことはまだできない。しかしこの夢がなかなか面白い。
 まず1人当たり5千ドルというGDPの水準は、2002年現在のOECD諸国を例にとると、第27位がメキシコで6,246ドル、28位がスロバキア4,970ドルであり、丁度、その間に入る。2050年までには各国のGDP水準もある程度上がるから、その頃に1人当たり5,000ドルという所得水準を実現する夢は、なんともささやかな夢である!と誰も思うであろう。
        
 ところが中国は現在、12億7千万人という巨大な人口をかかえている。そこで、この人々が5千ドルの国内生産を行なうとすると、その総額は6兆3400億ドルという巨大なGDPになり、アメリカに次ぐ世界第2位の経済大国の位置を占めることになるのである。

 つまりケ小平の中国の夢は、21世紀の中ごろに世界第2の経済大国になることであった。このことを「ささやかな夢」のように世界に発表したケ小平という政治家は、なかなかの知恵者である。もしケ小平が、21世紀の中ごろに世界第2位の経済大国を目指すと発表したら、アメリカは仰天して必ず中国の経済発展を抑えにかかったであろう!
 ちなみに21世紀の初頭において、日本のGDPは世界第2位で4兆ドル、アメリカが第1位で10兆ドルである。

 2004年現在における中国のGDP関連の経済データに対して、2050年の目標値がどのようになるかを図表-8にあげる。

図表-8 21世紀中葉における中国経済の目標値の試算
人口
為替レート
1人当たりGDP
GDP総額
GDP(ドル・ベース)
2004年
12.7億人
8.28元/ドル
1,075ドル
13兆6515億元
1兆6366億ドル
2050年
同上
同上
5,000ドル
52兆5145億元
6兆3423億ドル

 しかしこれで驚くのはまだ早い。図表-8に試算した2050年の数値はいろいろな点で現実離れしているのである。そしてすべての数値は、2050年以前の早い段階でこの夢が実現することを示している。

 まず2050年に達成すべき52.5兆元、6兆3千億ドルというGDPの目標値は、中国が2004年以降、年率3.3%の成長率を維持すれば実現できるのである。
 中国は、日本と同様に非常に貯蓄率が高い国である。それは年率40%近い数字を示しており、今後もかなり高い数値が予想されている。
 貯蓄率が高いということは、投資水準も高くなることを意味しており、そこで3%という低成長率は極めて考えにくい仮説になる。

 21世紀初頭から始まった西部地域大開発や、2008年の北京オリンピックの開催などを考えると、当面は9%台の成長率は十分に確保されると思われる。
 そこで9%の成長率で、2020年のGDPを計算してみると次のようになる。
    2020年のGDP   542,000億元  (2004年以降、年率9%の伸びを仮定。)
 つまり中国通貨の元で計算すると、ケ小平の2050年の目標値は2020年以前に達成される可能性が高いのである

 さらに現在、元の国際通貨にむけての通貨改革の問題がある。2004年現在、元の為替レートは、現実レートは8.28元/ドルであるが、実力レートは6.88元/ドルであり、現在の元の評価は低すぎるのである。
 この実力レートで計算すると、2020年のドル・ベースによるGDPは7兆8780億ドルになる。つまり中国が、日本のGDPを抜いて世界第2位になるのは、2020年を待たず、2010年代後半には達成される

 さらに、国際政治がからむ台湾の帰属問題がある。台湾のGDPは現在、2,700億ドル程度であるが、この額は現在時点では、中国経済にとって非常に大きな数字である。
 そのため台湾の中国への帰属は、中国の21世戦略にとって非常に魅力的な課題になる。同時に、台湾にとっても中国の巨大市場はアメリカ以上に重要であり、今後大きな展開が予想されるテーマである。

●中国―世界一の大国化への道
 ケ小平は、2050年頃、中国のGNPを1人当たり5,000ドルにしようという夢を描いた。ところが、現実はそれより遥かに早い段階で実現されることが予想されている。その夢が実現されたとき、中国は世界第2位の帝国になる。さらに、ケ小平の描く夢の数値は、成長率3%という信じられないぐらい低いものであった
 ケ小平は、この夢があまりにもつつましいものであることを十分知っていたと思われる。
 しかしこのとき、もしケ小平が本当に見ている夢を語ったとしたら、その段階でアメリカの大統領や国民は、もはや冷静な感情を失っていたに違いない。

 中国の12億7千万人の国民が、40%近い貯蓄率を維持してこれから進む道は、どう控えめに見ても、21世紀の前半において9%台のGDP成長率を維持するであろう。
 仮に、9%の成長率で2050年まで中国経済が進むとすると、GDPを現在の元の実力レート6.88元/ドルで計算すると、なんと2050年の中国のGDPは10兆4520億ドルになる。
 これは2002年におけるアメリカのGDPである10兆4463億ドルに見事に一致する。

 現在のアメリカ経済は、巨額の貿易、財政、経常収支の3つ子の赤字を毎年更新しており、その上に巨額の累積赤字を背負っている。しかもこの状態は21世紀の中ごろまでに抜本的に改善することはもはや不可能である。そのためこのままで行けば、21世紀の中ごろには、既に老衰したアメリカに代わり、中国が世界一の経済大国の座につくことはほぼ確実になってきている。ケ小平の第3の夢とは、本当は、21世紀の中ごろに中国が世界一の大国になることであったと思われる。
 それをケ小平は十分に知っていて、マジックのように見事にそれを隠した!

 しかし中国の世界一の大国化への道は、今後、非常に険しい局面を迎えると思う。
 アメリカは既に中国を最大の仮想敵国とした極東戦略の全面的見直しを進めている。
 1方の中国も国防費を急増させて、アメリカに対抗できる現代的軍備を急速に整えつつある。既に現在の中国の核・ミサイル戦力は、アメリカ、ロシアに比肩できるレベルにあるともいわれる。

 2005年7月21日、中国人民銀行(中央銀行)は、従来、米ドルに対して約8.28元に固定してきた為替制度を、米ドルに対し8.11元に切り上げると共に、ドル以外の主要通貨にリンクさせる「通貨バスケット方式」に転換することを発表した。
 現在、米ドルに対し20-30%割安水準にあるといわれる元の切上げが、わずか2%では、切上げ幅としては非常に小さい。しかしバスケット方式を採用したことにより、ドル離れが始まったことは、経済的なアメリカ離れの第1歩を踏み出したことを意味している。

 それは元が国際通貨へ発展する第1歩であると同時に、従来、国際通貨であったドルの凋落の始まりをも意味している。軍事的な大動乱の前に、国際通貨の大変動への幕が既に静かに開き始めた。
 第3の軍事国家であるロシアが、天然ガス、自然エネルギーの輸出の好調に支えられ,急速に経済、軍事の力を復活させつつあり、21世紀の世界経済と国際関係は、急激に新しい段階への展開を見せ始めている。




 
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