アラキ ラボ
日本人と死後世界
Home > 日本人と死後世界1  7  8  9  10  11  12  >> 
  前ページ次ページ
  (5)八大地獄

 極楽世界については既に詳しく述べたので、地獄について述べる。
 地獄は、大地の下の4万由旬の所にあるといわれる。1由旬は、20~30kmといわれるので、地表から100万kmの地下にあるということになる。しかしこの距離は、極楽が十万億土という遠い先にあることを考えると、非常に近い距離にあることになる。

 地獄は、八大地獄で構成されている。最下層の阿鼻地獄から、順に大焦熱地獄、焦熱地獄、大叫喚地獄、叫喚地獄、衆合地獄、黒縄地獄、等活地獄の8つがそれである。
 さらに、この八大地獄の近辺には、おのおの16の地獄があり、その数は128になる。
 これに八大地獄を加えて、総数は136ある。

 これらの地獄の場所は、人それぞれの罪の軽重にしたがって落ちて行くとしたので、餓鬼はその字のごとく飢餓に苦しむ境涯であることから、須弥山の外輪をなす鉄囲山の間の、日月の光がささない所にあるといわれる。
 また、修羅は、闘争を繰り返す境涯であるため、須弥山の東西1千由旬の外にあるとか、大海の下、2万1千由旬のところにあるとか、仏教的宇宙のいろいろなところに造られているようである。
 この地獄の複雑さや壮大さは、極楽世界の単純さに比べて、驚くべきものである。
 「往生要集」(985)に詳述されており、以下、簡単に述べる。

● 等活地獄
 「等活地獄」は、地獄の最上層部にある。ここの罪人は互いにいつも敵愾心をいだいており、互いに傷つけあう。獄卒の鉄棒などで粉々にされるが、風がふくとすぐ元の形にもどる。生き物を殺した人が落ちる地獄である。
 この地獄の4つの門の外にはさらに、糞尿でどろどろになり、中に虫が充満した「屎泥処」、また周囲を鉄の壁に囲まれ、中には猛火が燃え盛り、刀の林が人を傷つける「刀輪処」、罪人を鉄の甕に入れて煮る「瓮熱処」など、16の地獄が付属している。

● 黒縄地獄
 「黒縄地獄」は、等活地獄の下にあり、罪人は熱した鉄の地面に臥せさせられ、熱い鉄の墨縄で縦横にからだに墨がうたれ、墨に合わせて熱い鉄斧、鋸、刀で切り刻まれる。体はばらばらの断片になり撒き散らされ、風がふくと体に縄がからまり、肉を焼き骨を焦がす。左右の鉄の山の上には、縄を張り、その下に煮えたぎった釜を置き、罪人は鉄の束を背負って釜の上の縄を渡る。この地獄の苦しみは、等活地獄とその付属地獄の十倍も重いという。

● 衆合地獄
 「衆合地獄」は、黒縄地獄の更に下にある。多数の鉄の山が向い合ってあり、罪人は、牛、馬の頭をした獄卒にここへ追い込まれる。すると山が両方から迫ってきて、罪人は潰され、体は砕け、血は地上に溢れる。鉄の山は空から落ちて罪人をくだき、あるいは、罪人を石の上に置いて潰す。残忍な獣、鳥、鷲が罪人のはらわたを、先をあらそって食い荒らす。火の川があって熱い赤銅がとけて流れている。地獄の鬼は、罪人を捕らえてこの中に投げ落とす。罪人は、手をあげて泣き叫び、助けを求めるが、だれも助けてくれない。

● 叫喚地獄
 「叫喚地獄」は、衆合地獄のさらに下にある。金色の頭の地獄の鬼が、目の中から火をだし、赤い着物をきて、恐ろしい声をだし、鉄の棒で罪人の頭を打って、鉄の地面を走らせ、熱い炒り鍋や熱い釜に罪人を入れてあぶり、煮たりする。また金鋏で罪人の口を開け、煮えた銅を流し込むと、内臓から肛門まで流れ出てくる。

● 大叫喚地獄
 「大叫喚地獄」は叫喚地獄の下にあり、生き物を殺したり、盗みをしたり、よこしまな淫にふけったり、酒を飲んだり、嘘をついたものが落ちる。ここでは、前の4つの地獄と16の特別な地獄で受ける苦しみを、10倍した苦しみを受ける。
 この地獄へ落ちる理由をみると、現代に生きる人間は、すべてこの大叫喚地獄より下に行くしかないように見える。
 この恐ろしい地獄の表現は難しく、「往生要集」も内容を書いていない。ただ付属する特別地獄の「受鋒苦処」において、罪人は熱い鉄の針で唇と舌を刺し通されて、もはや泣き叫ぶことさえできない。
 また受無辺苦処という特別の地獄もある。地獄の鬼が熱い鉄の金鋏で罪人の舌を抜くが、抜くとすぐ生える。生えるとすぐ抜く。目をくり抜くと、これも同様になる。 大叫喚といいながら、叫ぶこともできないという、恐ろしい地獄である。

● 焦熱地獄
 「焦熱地獄」は、大叫喚地獄の下にある。地獄の鬼が罪人を熱い鉄の地面に横たえ、頭の先から足の先まで熱い鉄の棒で打ったり、突いたりして肉団子のようにしてしまう。あるいは鉄鍋のなかで罪人を煮たり、焼いたりする。鉄串で尻から頭まで突き通し、繰り返し炙る。この地獄の豆粒ほどの火でも、地上世界では大火になるほどのものである。
 この地獄に付随した分茶離迦処という地獄では、罪人の体中けし粒ほどの余地もないほど火炎につつまれる。また闇火風処という地獄では、罪人が悪風によって吹き上げられ、掴まる所もなく、車輪のようにくるくる回っている。

● 大焦熱地獄
 「大焦熱地獄」は、焦熱地獄の下にあり、前の6つの地獄の10倍くらい苦しい。ここに来る罪人は、死後、地獄に落ちるまでに、大地獄の苦しみや恐ろしい状況を見せられたうえでやってくる。この状況に恐れおののく罪人を、地獄の鬼は火炎の塊の中に突き落とす。
 この地獄に付属する地獄も、大空までことごとく燃え盛るところで、何億年ものあいだ、たえず焼かれる。また普受一切苦悩処という地獄では、炎をあげる刀で、体の皮膚をすべてはがされ、熱い地面の上で焼かれ、更にどろどろに溶けた鉄が体に注がれる。

● 阿鼻地獄
 「阿鼻地獄」は、大焦熱地獄の下にあり、欲界の最下底の地獄である。罪人はここへ落ちていくとき、その間も泣き叫ぶという。二千年もかけて逆さになって落ちつづける地獄である。地獄の城のまわりは、刀の林に囲まれ、四隅には銅製の恐ろしい犬と18人の恐ろしい鬼がいる。その牙からは火を吹き出していて、頭は羅刹、口は夜叉、64の目をもち、鉄の塊を吹上げ、撒き散らす。前の7つの大地獄とそれに付属する特別の地獄でうける苦しみを全部合わせたものの、千倍を越える苦しみを味わうことになる。

 以上の8大地獄に、それぞれ16ずつの特別地獄がついており、総数136の地獄の壮大さは想像を絶するものである。「往生要集」は、その主要な部分を非常な迫力をもって描写しており、そのいくつかの部分は「地獄図絵」に措かれて今に残る。

  記述の中で、極楽と地獄について詳しく述べたが、それを含めて、仏教世界の概要をまとめてみる。

 






 
Home > 日本人と死後世界1  7  8  9  10  11  12  >> 
  前ページ次ページ