(4)技術大国・日本の落日
最近、少し状況が変わってきているが、韓国経済は財閥に支えられて成立している。これに対して、台湾経済は主要な財閥企業がなく、多数の中小企業により支えられてきた。
これに比べて、日本経済は、旧財閥系の巨大企業が存在している上に、実体経済は巨大企業が抱える下請けの中小企業によって支えられている。つまり日本経済の強さは、韓国経済と台湾経済が組織的に組み合わされてきたことにある、と私は考えている。
ところが1980年代の後半から90年代の終わりにかけて、大企業があまりにも下請け企業を踏みつけにしたため、下請け企業の技術や経営は体制的に弱体化し劣化してしまった。ICOの臨界事故はその典型であると私は考える。
はからずも原子力技術の最先端をいく東海村の臨界事故の同年、日本が技術で世界にほこる新幹線で、トンネルのコンクリートの崩落事故が起こった。そして前年には新幹線のトンネル崩壊による漏水で、送電が止まる事故が起こった。つまり90年代の末、日本の技術が世界に誇る新幹線と原子力発電所で技術の基本を疑う事故が発生していた。
原子力発電所では、高速増殖実験炉「常陽」の燃料生産という技術的に最先端の仕事を行っているのに、実際に作業に従事する下請け企業の作業員には、殆ど安全教育さえ満足に行なわれていなかった。そして事故が起こったら、その小企業JCOの社員たちにより決死隊を組織して、放射線を出し続ける沈澱槽の水抜き作業に突撃させた。
それは、果てしなく全員が戦死を覚悟で203高地の攻撃に向う日露戦争の旅順攻撃や、太平洋戦争における万歳突撃に似ていた。そこには「技術大国」の矜持は、最早、その片鱗だになかったと思われる。
21世紀に日本が技術立国を目指すとすれば、もう一度、技術と経営の基本から作り直すしかないと思う。
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