(3)郵政6法案1年間の攻防 ―2005年の小泉劇場
2005年の郵政民営化の攻防は、1月21日の通常国会における小泉首相の施政演説において郵政民営化法案の提出宣言が行われ、5月20日の衆議院本会議で「郵政民営化に関する特別委員会」が設置されることにより開始された。
5月26日、衆議院本会議には、内閣提出による次の郵政6法案が提出され、その趣旨説明が竹中平蔵国務大臣によって行われた。
・ 「郵政民営化法案」
・ 「日本郵政株式会社法案」
・ 「郵便事業株式会社法案」
・ 「郵便局株式会社法案」
・ 「独立行政法人郵便貯金・簡易生命保険管理機構法案」
・ 「郵政民営化法等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案」
6月28日、自由民主党総務会において修正案が全会一致の慣例を直前に変更して、初の多数決採決により賛成7票・反対5票で可決された。7月4日に委員会採決が行なわれ、一部修正の上、可決された。
7月5日、衆議院本会議において採決が行われ、賛成233票・反対228票という僅差で可決され、参議院に送られた。参議院の審議は7月13日から始まり、小泉首相は郵政民営化法案が否決された場合には、衆議院を解散することを示唆し始めた。
7月14日、自民党の衆議院議員13名によって、「党内融和」を目的とする会合が開かれた。この会合では、「かつて自由民主党が野党になった時の惨たんたる経験を繰り返してはならない」という方針のもと、参議院で郵政民営化法案が否決された場合にも、衆議院解散・総選挙を回避するように求めていた。
その際、参議院では反対派の荒井広幸氏を中心に、自民党執行部に賛成の説得を受けないようにする反対派への「ステルス作戦」が行われた。
7月20日、青木幹雄参議院議員会長(執行部・郵政民営化賛成派)と綿貫民輔氏(郵政民営化反対派)らの会食が、東京都内で行われた。そして参議院での裁決が近づくにつれ、民営化法案が廃案になった際の衆議院解散の方に議員の関心が傾いていき、自民党内からは、「解散反対」の意見が噴出し始めた。
8月1日、自民党の永岡洋治衆議院議員が自宅で自殺をしているのが発見された。8月5日には参議院郵政民営化特別委員会に於いて採決が行なわれ、自民党および公明党の賛成多数により可決された。
しかし参議院本会議における郵政法案に対する投票においては、賛成108票・反対125票で否決された。
8月8日、参議院において郵政法案が否決されたことから、小泉首相は民意を問うために衆議院の解散に踏み切ることを表明した。しかし解散を決める臨時閣議は、中断を挟みながら2時間を超える長時間に及んで紛糾した。
反対の閣僚のうち麻生太郎総務大臣と村上誠一郎行政担当大臣は、最終的には首相の説得に応じて署名をしたが、島村宜伸農林水産大臣は最後まで署名を拒んだ。そのため、小泉首相は島村農水大臣を解任して、総選挙に臨むことになった。
第44回衆議院議員総選挙は、郵政民営化の是非を国民に問う選挙となった。自民党は、この法案に反対する37人の公認を取りやめ、その選挙区には「刺客候補」と呼ばれる対立候補を擁立して選挙に臨んだ。
そのため郵政民営化法案に反対した自民党議員は党の公認を得られなくなり、それに代わって当選した新しい自民党議員は、「小泉チルドレン」と呼ばれた。
9月11日、小泉首相の郵政民営化は、予想を超える国民の支持を受け、第44回衆議衆議院議員総選挙は小泉自民党が圧勝し、自民党は296議席を獲得した。公明党の31議席とあわせると、与党で衆議院議員定数の3分の2にあたる327議席を獲得した。
投票率は、小選挙区が67.51%(前回衆院選59.86%)、比例代表が67.46%(同59.81%)と上昇した。 期日前投票は8,962,955人(有権者のうち8.67%)と、国政選挙で最高を記録し、国民の関心の高さをうかがわせた。
一方の野党は、民主党が113議席と選挙前の177議席から大幅に議席を減らす惨敗を喫し、同党代表岡田克也氏は責任を取って辞任した。後任には民主党内でも最右派と言われる、前原誠司氏が就任した。
共産党と社民党は現有議席を維持したものの、国民新党・新党日本は惨敗した。
郵政問題に絡む自民党からの離党者等を除く無所属議員は僅か2名(江田憲司・徳田毅)となり、大政党に有利な選挙制度が改めて浮き彫りとなった。
衆議院で過半数を獲得したことにより、郵政民営化は国民の真意を得たとして、解散前の審議で反対した議員も転向して、郵政民営化に賛成した。それは、小泉首相の目論見どおりであった。自公両党で3分の2以上(321以上)の議席を獲得した事について、自民党内では「勝ち過ぎだ」として次回の選挙で揺り戻しが起こり、自民党が負けてしまう事を懼れる声が上がったと言われる。
現に民間が行った世論調査によると、総選挙の結果に対する感想として、自民党が予想以上に議席を掌握した為、不安を感じると答えた者が、全体の半数を超えた。
9月17日未明の持ち回り閣議で、第163特別国会の日程が9月21日に召集されることが決まった(会期は11月1日までの42日間)。9月21日、首班指名選挙の後、政府は郵政民営化法案を再提出した。
10月11日、政府提出の郵政民営化法案は、衆議院特別国会の本会議において、賛成338票・反対138票で通過成立した。さらに、10月14日、参議院本会議において賛成134票・反対100票で可決され、法案は成立した。
この採決では、前回反対した自民党の造反議員の多くが賛成に回った。
10月21日、自民党は新党参加組の処分を下した。さらに、10月28日、新党組以外の造反議員に対する処分を下した。これで1月から始まった小泉劇場の幕が下り、自民党の中の人間関係には、殆ど復旧できないほどの深刻な亀裂が残された。
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