アラキ ラボ
どこへ行く、世界
Home > どこへ行く、世界1  <<  29  30  31  32  33  34  >> 
  前ページ次ページ

1. アメリカ経済の行方―ドル本位制の終焉
2. ヨーロッパ経済の行方
3. 中国の政治・経済の行方(1) −毛沢東とその時代
4. 中国の政治・経済の行方(2) −ケ小平とその時代
5. ロシアの政治・経済の行方(1)

6. アメリカ・イラク戦争 −中東と世界の行方
(1)狂いだした歴史の歯車
(2)中東の石油とアメリカ
(3)中東和平 ―イスラエルとパレスチナ(その1)
(4)中東和平 ―イスラエルとパレスチナ(その2)
(5)アメリカとイラク戦争の行方(その1)
(6)アメリカとイラク戦争の行方(その2)

7. アジア経済の行方
8. 21世紀の世界はどこへ行く?
9. アメリカはどこへ行く?(その1)
10. アメリカはどこへ行く?(その2)
>>
 
  6. アメリカ・イラク戦争 −中東と世界の行方
(1)狂いだした歴史の歯車
★すべては9.11から始まった!
 いま我々の前で進行している新しい歴史は、2001年9月11日、ニューヨークの世界貿易センターや国防省などのビルに民間機が激突した衝撃的な事件から始まった。しかしこの「同時多発テロ事件」も歴史上の大事件の多くの場合と同様に、それは見かけ上のことであり、実際には歴史の大きな流れの中に組み込まれて起こった事件の一つにすぎない。そこからアメリカがアフガンやイラクで行った惨劇は其れを遥かに越えている。
 ここでは、この事件の背景をなす大きな流れを考えて見たい。

 この事件を聞いた時、私が感じた最初の疑問点から話を始める。この事件直後、アメリカ大統領ブッシュは、「これは単なるテロではない。戦争だ!」といった。しかし「戦争」であれば、常識的には「敵国」がなくてはならない。アメリカは、一体、どこの国と戦争を始めるつもりなのであろうか?

 暫くしたらオサマ・ビンラディンというテロを計画したとされる人物の名があがった。
 サウジアラビア最大の建設会社の息子といわれるが、一国を代表する人ではない。アフガニスタンの支配勢力であるタリバンの、いわば1食客にすぎない。更に、テロの実行犯とされるスタッフも、アフガニスタンやイラクの国民ではなく、その多くがサウジアラビア出身の青年である。しかも彼らは飛行機の操縦をアメリカのフロリダにある飛行訓練学校で学んだといわれる。つまりテロリスト達は、アメリカで養成されていたわけである。

 更に、オサマ・ビンラディンなる人物が、本当に9.11事件の計画者であるかどうかも不確かなまま、アメリカは10月から一方的にアフガニスタンのタリバンの攻撃を開始し、11月にはタリバンは崩壊した。アメリカ大統領ブッシュは、当初はオサマ・ビンラディンをどうしても逮捕して裁判にかけるといっていたが、その後に逮捕もされず、生死も不明のまま、いつのまにかうやむやになってしまった。

 オサマ・ビンラディンが話題から消え始める頃から、ブッシュは、今度はテロの張本人がイラクのフセインだといい始めた。しかしなぜフセインと戦わねばならないのか?という理由は、ころころ変わっていった。最初は、「イラクが9.11を支援した」という理由であった。9.11の首班とされるエジプト人モハムド・アッタが、犯行前にイラク側とプラハで接触した疑いである。しかしこの事実は、チェコの大統領によって否定された。

 次にブッシュ政権は、「イラクは密かに核兵器を開発している」という理由を持ちだした。そこで国連による査察が再開されて、2003年の春になっても何も出てこないと、国連を始め世界中の反戦世論を無視してアメリカは、イギリスと共に単独でも攻撃するといって、3月にイラク戦争に突入した。

 「戦争」という行為自体に、本来、「正義」がある場合は少ないが、今回は「アメリカの侵略戦争」としか言いようのない、近来まれに見る理不尽な戦争であった。
 4月にアメリカが、完全に勝利した後でも、核兵器は勿論、生物,化学兵器もでなかった。すると戦争の理由は、「イラクの民主化」だと言い出して、王政のサウジをはじめ多くの中東の国々をアメリカは困らせている。

 ニューヨークの貿易センターの何倍もの建物が破壊され、何十倍もの罪もない人々が殺害されて、9.11の犠牲者もこれでは浮かばれない。しかも最近のアメリカの言論統制は、更に異常である。イラク国営TVに出演したABC・TVの記者が、米軍の戦術を批判したという理由で解雇されたり、歌手のマドンナが出演する映画の1シーンで、手榴弾を投げつけられる俳優の顔がブッシュに似ているという理由でビデオの発売が中止になったりした。それどころかバクダッド攻略では、アメリカに都合の悪い報道をしていた、アルジャジーラやロイターのホテルが米軍の砲撃を受けて、死傷者まで出している。

 これらは報道統制というより、更に踏み込んだ「報道の自由」の妨害であり、従来のアメリカにおいては考えられなかったほど、ひどい状況である。自由主義とか民主主義とかいってきたアメリカに、ブッシュ政権になって、一体、何が起こったのか?
 このような異常な状況が生まれてきた原因は何なのであろうか?

★アメリカ・イラク戦争の動機
 90年8月、イラクがクウェートに侵入した時、父親の方のブッシュ大統領はアメリカの出兵を非常に躊躇していた。それは、われわれ庶民が見ていても分かるほどであった。
 当時のブッシュ政権は、その4年間にレーガン政権の8年間の財政赤字に近い1兆ドル(120兆円)の財政赤字を出しており、アメリカの累積債務は4兆ドル(500兆円)という巨額に達していた。このままブッシュ政権が2期続けば、アメリカの国家財政は1995年には破産するという予測が出ていたほどである。(H.フイギー「1995年合衆国破産」、邦訳:クレスト社)

 「湾岸戦争」の時のイラクの行為は、いろいろ言い分があるにしても、明らかにクウェートに対する侵略戦争に見えた。当時、この侵略を阻止できるのはアメリカの軍事力しかないと世界中の人々は思っていたし、国連の安全保障理事会もイラクの侵略を止めるには、アメリカの軍事力に頼るしかないと思っていた。それにもかかわらず当時のブッシュ大統領は、最後までクウェートへの出兵については逡巡していた

 アメリカがイラクに対して開戦すれば、多数の戦死者が出るだけでなく、アメリカ経済が破滅する瀬戸際にあった。このブッシュ大統領を、イラクの軍事攻撃に踏み切らせたのはイギリスのサッチャー首相であった(「サッチャー回顧録」下)。
 幸いにして湾岸戦争では、アメリカの軍事攻撃によりイラクはクウェートから撤退し、ブッシュは無敵の大統領といわれる高い評価をえた。そして、その後のクリントン大統領が、レーガン、ブッシュの軍事優先の政策を経済中心の政策に大きく転換させて、アメリカは国家破産を免れ、90年代には長期の経済繁栄を実現することが出来た。

 クリントン政権の8年間に、アメリカの国家財政は長年の赤字財政からようやく脱し、やっと黒字に転換することができた。ところが今のブッシュ政権に代わった途端、再び大幅な赤字財政に突入した。財政、貿易、経常収支、共に史上最高額の赤字を記録し、アメリカの繁栄を支えたITバブルも住宅バブルも共に崩壊した。そして、アメリカは再び「三つ子」の赤字による経済崩壊の危機に晒されはじめた

 前のブッシュ大統領の時には、アメリカの経済危機がイラク戦争の開戦を躊躇させた。それが、今回はアメリカの経済危機が逆にイラク戦争の開戦を決意させた。今回の戦争の最大のねらいは、第一に「強いアメリカ」を演出することにより、既にリストラが始まっていたアメリカの軍需産業を再び活性化させること、第二に中東でアメリカの軍事的覇権を確立することにより、石油・天然ガスなどエネルギーにおけるアメリカの支配権を確立すること、そして第三に泥沼化しているイスラエル・パレスチナ問題をアメリカの軍事力を背景にして解決に導くこと、といった中東を中心にしたアメリカの遠大な戦略の第一歩であり、それによって現在のブッシュ大統領の再選を実現することにあると思われる。

 その手始めに、まず強大なアメリカの軍事力によりフセイン政権をつぶす。そして中東第二の産油国であるイラクに親米政権を樹立し、そのことにより中東全体の石油に対する支配権を確立することである。これが上手く行けば、OPECを無力化して、中東の石油利権を確立することができる。更に、そのことによりアメリカの経済危機を乗り切ることができる。

 中東におけるアメリカの政治,経済面での覇権が確立すれば、現在、泥沼に陥っているイスラエル・パレスチナ問題に対するアメリカの影響力が強まる。そのことにより、中東和平への糸口がつけられるかもしれない。現在のテロの原点は、本当はイスラエル・パレスチナ問題から発している、といえるのである。
 うまくゆけば今回のイラク戦争は、アメリカにとって「一石三鳥」の政策になりうる。表面には出ないが、比較的筋書きは読みやすい。問題は、そのように上手く事態がすすむかどうかにある。このアメリカの政策の行方を、次に中東の石油とイスラエル・パレスチナ問題を中心に考えてみよう。




 
Home > どこへ行く、世界1  <<  29  30  31  32  33  34  >> 
  前ページ次ページ