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どこへ行く、世界
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1. アメリカ経済の行方―ドル本位制の終焉
2. ヨーロッパ経済の行方
3. 中国の政治・経済の行方(1) −毛沢東とその時代
4. 中国の政治・経済の行方(2) −ケ小平とその時代
5. ロシアの政治・経済の行方(1)
6. アメリカ・イラク戦争 −中東と世界の行方
7. アジア経済の行方
8. 21世紀の世界はどこへ行く?

9. アメリカはどこへ行く?(その1)
(1)ロシア崩壊の次はアメリカか?
(2) 「新大陸アメリカ」の勃興
(3)アメリカの太平洋の世紀(その1)
(4)アメリカの太平洋の世紀(その2)

10. アメリカはどこへ行く?(その2)
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  9.アメリカはどこへ行く?(その1)

(1)ロシア崩壊の次はアメリカか?
●20世紀初頭、ソ連社会主義は「輝く星」であった!
             北方の星は冴えたり・・
             仰ぎ見ん、かがり囲みて・・
             友よ、いざ寄れ!(1929・旧制一高・寮歌より)
 戦前の「超エリート」(日本のノーメンクラツーラ)の中核をなした旧制一高生に、彼らの先輩である東大生が贈った寮歌の一節である。
 この歌には「隠れキリシタン」の賛美歌にも似た言葉がたくさん登場してくる。まずこの歌の意味は、次のようなものである。ひたすらに「真理」を求める友が集まっているまなびやに「北方の星」が輝き、夜を通して「黙示録」の言葉がささやかれている。さあ友よ!かがり火を囲んで,その星を仰ぎ見ようではないか!
 
 この「北方の輝く星」とは、「ロシア革命」後のソ連を指している隠語である。この歌が贈られた1929年には、すでにレーニンは死んで、スターリンの時代が始まっていた。ソ連の農村では集団農場化が進み、「階級としての富農は絶滅」し、 ソ連の社会主義社会には、フランス革命の「自由、平等、博愛」を越えて輝くばかりの新しい世界が始まっているように見られていた
 
 一方、日本の1929(昭和4)年は、昭和恐慌の真只中にあり、学生は大学を卒業しても職はなく、農村では娘を売り、見捨てられた人々は海外へ棄民となって出てゆく状況にあった。この頃、日本人はロシア革命の影響を非常に強く受けていた。日本の国内では、社会主義思想は厳しい取締まりを受けていたが、その当時の日本の超エリートたちがいかに密かにロシアの社会主義に憧れたかをこの寮歌は示している

 20世紀初頭のロシアから始まった社会主義革命は、世紀の中頃に到ると中国、東欧、アジア、中南米など世界中に広がった。そして、これに対抗するアメリカ、イギリスをはじめとする資本主義国家の対ソ連戦略が展開されて、20世紀の後半期には世界を2分する異常な国際政治・経済の関係が作り出された

 この中でロシアが主導した社会主義社会では、個人崇拝、全体主義、秘密警察、収容所、軍事独裁、一党独裁などが明らかになり、人類の未来像として考えられた社会主義への夢はすべて破壊されてしまった
 そのため20世紀の後半になると急速に社会主義の魅力が失われて、世紀末にはロシア社会主義そのものが崩壊することになった
 その上、社会主義崩壊後の大国ロシアでは、資本主義社会より更に激しい貧富の差が生まれて、社会主義社会には本来存在するはずのなかったロシアの植民地に、独立運動のテロが頻発するという悲惨な状況となってしまった。

 しかし社会主義ロシアの失敗は、アメリカ資本主義の成功を意味するものではなかった。そこに人類の深い悲しみがある。
 2004年5月現在、アメリカ・イラク戦争は、1年前に危惧した以上に泥沼化しており、アメリカを中心にした世界の政治・経済は21世紀に入って一層混迷の度を深めている
 社会主義ロシアの崩壊に続いて、アメリカ資本主義も早晩、崩壊か大転換の危機を迎える可能性が高まってきたのが最近の世界の状況である。

●21世紀初頭、アメリカも世界的混乱の中心になった!
  USA(United States of America)を単純に直訳してみるとアメリカ合州国である。「合州国」「合衆国」と誰が、何時、そのような日本訳にしたのか?それはよくわからない。しかし、リンカーンの演説で有名な"by the people, of the people, for the people"という"people"によって作られた民主主義国家という意味でこの訳語が当てられたのであろう。

 20世紀の前半、ナチスやソ連の全体主義国家に対して、アメリカの自由主義、民主主義は輝くばかりに見えた。往年の名画「カサブランカ」の中で、息詰まるナチス・ドイツの圧制から逃れて自由な国アメリカへ飛び立つ飛行機を待つ人々の目は、19世紀以来の自由な新大陸アメリカへの憧れを象徴していた。
 しかし20世紀後半のアメリカの国際政治は、アメリカの自由主義・民主主義が殆ど人類の幻想に過ぎなかったことを示してきている。

 アメリカの民主主義は、"people"(人民)の自由、平等、博愛の実現というヨーロッパが「市民革命」によってやっと手にした人民の権利を合衆国の独立当初からもっているように見えた。
 この精神に反して南部に存在していた黒人奴隷の制度も、1861年の南北戦争により清算されて、世界でも稀有の自由、平等社会が実現されていると思われてきた

 ところが実際には、南北戦争より百年後の1960年代に全米各地で発生した黒人暴動は、アメリカの自由、平等は単なる「建前」であり、それが幻影に過ぎなかったことを示すものになった。
 その意味では、「合衆国」という名も建前であり、実際には、20世紀の後半において黒人、アジア系、ヒスパニックなどに対する人種差別が日常的に存在するアングロサクソンを上位に置く白人中心の国家に過ぎないことが明らかになってきた。

 アメリカ民主主義の制度的原点をなしているものは、「州」を中心にした地方自治であり、このことがナチスやソ連などの中央政府による「全体主義」の対極にある国家と考えられてきた。
 そのことは、本来、国家の中央銀行が発行権限をもつ通貨の「ドル」札でさえ、アメリカでは各州で発行されており、それが全国で流通してことでも分かる。その意味で、アメリカの制度的民主主義の原点は「合州国」であった
 
 「合州国」は元々、ヨーロッパにおける複数の国の植民地であった行政区画が「州」を基本として作られていた歴史的経緯からくるものと考えられる。
 そのため通常の「国家」が持つ内政機能の多くは現在でも各州政府が持っており、それがアメリカの民主主義を支えてきたといえる
 ところがアメリカ建国以来の民主主義を支えてきたこの地方政治の機構は、現在では8万3千にも上る州,郡、市、その他の下部組織で構成されるほど複雑化しており、その多くは長い歴史の中で今ではほとんど時代遅れになってきている
 その片鱗は、2000年12月のゴアとブッシュが争った大統領選挙における殆ど信じがたい技術的な不手際となって露呈した。

 一方、アメリカ合衆国における中央政府の機能は、外国を相手にした軍事、外交、国家財政などが中心になる。しかしこの全体国家的機能の歴史は非常に浅く、20世紀後半期の高々半世紀に過ぎない
 この国際経験の浅さが最近になって世界的にその欠陥を露呈するようになり、アフガン戦争、イラク戦争などを通じて、急速に国際的破綻に直面し始めているのが実情である。
 更に経済面においても、アメリカ中心の「ドル本位制」による世界経済はもはや限界にきており、いつ崩壊してもおかしくない状態になっている。

 このアメリカの中央政府の機能は、1929年の大恐慌における「ニューディール政策」以降、重視されるようになり、第2次世界大戦後にアメリカが世界の軍事・経済の中心的位置を占めるようになって一挙に巨大化した
 つまり国際政治・経済におけるアメリカの歴史は、たかだか1世紀に満たない短さなのである。そのため、その権力の強大化に引き比べて、それを担当する政治家や官僚たちの能力は大きく劣るという悲劇的なアンバランスが露呈してきている。

 そのことは第2次大戦以後にアメリカが主導した朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、アフガン戦争、イラク戦争などの相次ぐ対外戦争の失敗を通じて明らかになり、今ではもはやどうしようもない状態に落ち込んでいる。
 その原因はアメリカの大統領を含めた中央政府の担当者の国際政治・経済の能力の欠如としかいいようがない。
 その結果として、第2次世界大戦の終了時には世界中からアメリカへ集中していた国富が、わずか20数年の間にすっかり失われてしまった。

 アメリカの経済危機は、1960年代の終わり頃から深刻化の一途をたどっており、今では殆ど破綻を待つばかりの事態となっている。
 このアメリカ経済の最初の危機表明は、1971年8月15日のニクソン大統領による金・ドルの交換停止の発表であった。ところが驚くべきことには、その後もアメリカ政府による巨額の財政支出は止まることはなく、1985年のレーガン政権の時代には、アメリカは世界一の債務国に転落した上に、日本が代わって世界一の債権国になるという信じがたい状況になった。

 アメリカ政府によるドルの垂れ流しは、1990年8月の前のブッシュ大統領による湾岸戦争、2001年10月のアフガン戦争、2002年3月イラク戦争と続き、もはや戦費の増大は留まるところを知らない状態になっている

 その結果、2004年の段階でアメリカの国家債務は日本円にして1千兆円を遥かに越える世界一の借金国家になった。この借金額は、アメリカのGNPのほぼ1年分に当る巨額なものであり、その借金はイラク戦争により今なお増え続けている。
 このまま負債総額が増えると、ある時点から支払利子が幾何級数的に急増するため、アメリカの財政破綻はもはや避けられない段階に入っている。
 
 アメリカの政治・経済の破綻は、ソ連の破綻と比較にならないほどの影響を世界全体に与えることが予想される。
 とりわけアメリカと頭は別々でも内臓が繋がったシャム兄弟に似ている今の日本は、アメリカの破綻と共に深刻な国家危機に追い込まれることは必至であろう。
 その破綻の時期の予測は難しいが、早ければ2005年、遅くともそれから数年以内と私は考えている

 このような結果に到ったアメリカの政治・経済の特異な体質を、合衆国成立の歴史の中から考えてみようと思う。




 
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