(2)1990-2000年代の実体経済の推移
●GDP(国内総支出)の推移
まず85-06年のGDPの推移を図表-1にあげる。
図表-1 名目GDP(1985−2006)の推移(単位:1兆円)
(出典) 内閣府経済社会研究所データから作表
日本のバブル期は1987-89年の非常に短い期間であり、1990年春から、そのバブルが崩壊して平成不況が始まった。
図表-1を見ると、日本のGDPはバブル崩壊後の90年代前半期に400兆円から500兆円に増加している。これはいまから考えるとフシギなことである。
平成不況が既に陰にこもって進行している90年代の後半期に、GDPは500兆円という高水準に達した。そして98年の金融危機以降、GDPは500兆円を辛うじて維持するゼロ成長の不況期に入り、平成不況は誰の眼にも深刻化していった。
そしてそれから10年をへた2000年代の後半期に入り、ようやくゼロ成長から脱出できそうな兆候が見え始めたが、そこを2007年秋以降、サブプライムローン危機と原油高騰に見舞われた。
●諸物価の推移
長期の経済変動の分析は、物価の影響を除いて考えるのが普通である。しかし80年代の後半期に発生した「バブル景気」は、もともと株価と地価の急上昇を背景にして引き起こされたものである。そして、バブル後の深刻な不良債権の発生も、日銀による金利の引き上げによる株価・地価の急激な値下がりによって、引き起こされたものである。
つまり平成不況は、物価変動に密接に関る性格をもつことから、バブル前後の物価の変動を不況との関連で明らかにする必要がある。
▲株価
株価は、長期の経済変動の最も重要な指標の1つである。バブル崩壊が始まった1991年以降の日経平均株価(各年の始値)を図表-2にあげる。
図表-2 日経平均株価(1991-2007年:各年の始値)の推移
1989(平成元)年12月13日、日経平均株価は、史上最高の38,062円をつけた。それは日本のバブル景気が有頂天に立った瞬間であった。当時の証券業界は強気が圧倒的に支配しており、日経平均株価は翌90年には50,000円台を目指すと思われていた。
ところが91年の初値は24,069円になり、それから、円,株,債券のトリプル安が始まった。その後の日本経済は、平成元(1989)年を頂点として長い大不況の坂道を下り続け、2003年の初値は8,713円という史上最低値をつけている。
これから見ても、日本のバブル崩壊のダメージがいかに大きいものであったかわかる。
2002年暮れから2003年春の小泉内閣の時に、日経平均株価は8,000円台という史上最低値まで落ち込んだ。これは不良債権処理が進まず泥沼の様相を見せていたことに加えて、アメリカのアフガン、イラク戦争が始まり、日本への影響が懸念されたことによる。
しかし平成不況も2004年を底にして、株価は持ち直しに向った。この株価の上昇をリードしたのは外国の投資家たちであるが、やがて日本の個人投資家も参加するようになり、2007年秋に、17,000円台という90年代の水準まで戻した。しかし、その後、サブプライムローンと原油高騰の影響を受けて、再び14,000円台まで低落した。
▲地価
日本の不良債権処理を遅らせている最大の原因は、株価と土地価格の下落であった。それがまず株価が2003年を境に上昇に転じ、それと前後して、低落を続けていた地価も持ち直しの方向を見せ始めた。
6大都市における市街地地価指数の推移を図表-3にあげる。
図表-3 6大都市市街地地価指数の推移(2000年=100)
(出典)不動産研究所データから作図(全用途地域)調査時点は9月、02年は3月。
図表-3から明らかなように、6大都市の地価は89-90年をピークに、その後は低落の一途をたどってきた。しかし2005年を底に、緩やかに持ち直しの傾向が出始めている。
2007年には特に東京の商業地の上昇が急ピッチになっており、その傾向は他の大都市に波及していく事が予想されている。
▲企業物価(旧卸売物価)
1999年3月、日本銀行は従来の卸売物価指数を、生産者の側に視点を移した企業物価指数に改定することを発表した。
その新しい物価指数の平均値の推移を、図表-4にあげる。
図表-4 企業物価指数の推移 (1985-2007年:1999年=100)
(出典)日本銀行のデータ(毎年、1月)から作表
図表-4を見ると、企業物価指数は1987年のバブル期に上昇をはじめ、91年をピークに傾向的に低落を続ける。それが2003-04年の95.1を底にして上昇に転じており、2007年1月には1999年と同じ101.2まで回復してきている。
▲消費者物価
消費者物価指数(総合:年平均)の推移を、図表-5にあげる。
図表-5 消費者物価指数(総合:年平均)の推移(2005年=100)
(出典)日本銀行のデータから作表
各年の消費者物価における上昇率の推移を見ると、図表-6のようになる。
図表-6 消費者物価(総合)の上昇率の推移(単位:%)
図表-5、6を見ると、消費者物価指数は1999年にピークに達し、その後、毎年の物価上昇率はマイナスに転じる。そして2006年に到りようやくプラスに転じている。つまり2000-2005年までがデフレ時代であり、2006年にようやくそこから脱却した可能性が出てきた。
●雇用状況の推移
雇用は国民所得を形成する源泉となる指標である。その雇用状況の推移を、完全失業率の変動により見ると、図表-7になる。
図表-7 完全失業率の推移(毎年1月:%)
(出典)厚生労働省のデータから作図
図表-7を見ると、80年代後半のバブル期に2%台まで低落していた完全失業率は、1991年の2.1%を底に上昇に転じ、2000年代にかけて傾向的に上がり続けた。そして完全失業率は2003年の5.4%をピークにして、2007年1月は4%まで下がってきている。
それは1998-99年の水準であり、まだ日本では失業率が非常に高い状態にある。
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