アラキ ラボ
脳卒中の記録
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  (11)3歩前進・3歩後退。
 夏目漱石の「猫」はお餅を喉に詰まらせ、死ぬ思いの中でいろいろ反省する。私も再入院の1週間、いろいろ反省していた。調子にのって我流のリハビリをすすめた結果、麻痺した右足に過重な負担をかけて、ストレスが蓄積したことはたしかである。しかし歩けなくなるようほどの強いストレスが、急に襲った原因とは考えにくい。一体、その原因は何であろうか?考えても、なかなか分からなかった。

 西洋のこばなしで、渡し船にお客が乗りすぎて動けなくなった。しかたなくお客を1人ずつ下ろしていった。牧師さんが下りたら船が動いたので、船が動かない原因は牧師さんであると皆が思った、というのがある。

 まさに「牧師さん」は、車椅子の人々である。その後もAngeで車椅子の人に逢うとなぜか緊張する。しかしそれは単なる偶然の動機である。
 東洋医学の先生に相談をしたら、もしかしてその時、歯の治療を受けませんでしたか?といわれた。私は、丁度、1週間前に抜歯していた。麻酔をかけられ、出血もなかったので気にもしていなかった。しかし思い起こすと、脳卒中を起こした時も、抜歯して1週間ほど後のことであった。歯を抜くなんて、誰でも経験することと安易に考えていたが、抜歯した日は、その夜も翌朝も、血圧が異常に上がっていることが記録にある。

 私は、前に人体に及ぼすストレスと建築との関係を「見えない空間性能」という本にまとめたことがある。温度の変化も大気汚染も騒音もヴィールスも痛みも、体はすべて同じストレスとして受け止める。自分が前に書いたことが、頭に蘇ってきた。抜歯は、麻酔により痛みとしては認識されないが、体は大変なストレスとして受け止めていることが考えられる。

 幸い1週間の入院で、退院できて自宅へ戻った。しかしその後もこの原因不明のストレスが時々襲い、私はすっかり自信をなくしていた。 東洋医学の先生から歯の治療によるストレスであることを教えられたので、6月末に歯医者さんへ行くことを止めた。歯の治療を中止したらストレスはみるみる取れてきた。そして7月には、歩行も前と同じ程度に歩けるようになり、更に裏のアスファルトの歩道を300メートルほど歩くようになった。完全に前の状態まで回復できた。

 ところが次の「牧師さん」がやってきた。8月のはじめに風邪を引き、せきが出るようになると、ふたたび強度のストレスがかかるようになった。ストレスがかかると、右肩から足の先まで筋肉の筋が緊張でピアノ線を入れたように引っ張られるようになる。すると足の中指から小指までが内側に縮み、足が体重を支えられなくなる。そうなると家の前にある5センチほどの縁石が、緊張のため降りられなくなるのである。脳卒中の後遺症の最大の敵は「ストレス」であることが分かってきた。更にストレスの原因は無数にあるが、私の場合、その原因の第一は歯医者の治療、第二は風邪のヴィールス、第三が天候(例えば、低気圧、台風)など、であることがわかってきた。

 ストレスが入ると、血圧が上がり、脈拍も増加する。歩く場合にも、小さな段差から足を1歩踏み出すのが、まるで高所から飛び降りるくらい、怖くなり足がすくむ。
 ところが、翌日、ストレスが取れると、昨日のことがうそのように、どんどんあるくことができる。このようなストレスと、どのように付き合っていくかが、私の闘病生活の最大の課題であることが分かってきた。

 ストレス次第で、病気は3歩前進したものが、次の日には3歩後退する。場合によっては、4歩後退することもある。こうなってくると、もはや精神力による戦いになる。

(12)脳卒中の中間決算
 10月で私の闘病は2年目を迎える。2001年10月に発病して、翌年3月に退院。4月から自宅療養が始まり、半年たったわけで、丁度、中間決算が必要になる。そこで私の中間決算と下期の計画書をまとめてみた。

 まず4月から9月までの計画と実績をまとめてみる。
 第一の歩行訓練は、Angeでの日常の歩行や車が走らない私道の歩行を毎日行った。その結果として、特に家の中で歩行は杖なしで自由になった。しかし外での歩行は、非常にストレスに左右されており、ストレスがなければほとんど自由に歩けるが、ストレスがあるとほとんど歩けなくなる。
 第二に自宅リハビリの実施は、起床時、就寝前、入浴中に行った。その結果は、自宅内部での動作や生活には、ほとんど支障がなくなった。
 第三に病院リハビリ室の利用は、訪問リハビリに切り替え、隔週に梅津先生の指導が受けられるようになった。
 第四に社会復帰へのアプローチは、まず自宅でできるパソコンの利用に始まる。これはこの半年でエクセル、ワード、VBAなど大体利用できるようになった。

 そこで半年の実施結果の問題点と、下期の計画をまとめてみる。
 第一は、退院して初めての寒い季節を迎えることである。病気の再発と余病の併発に対する万全の対策が必要である。そのためには、うがい、手洗い、適度の体操、休息などな必要である。
 第二に、歩行訓練は、歩行の安定化が必要であり、ストレスの最小化が課題となる。リハビリの先生の指導を受けて、安定した歩行を実現する。
 第三に、社会復帰の実現である。一つは、ホームページの開設であり、今ひとつは、通常の交通機関を利用できるようにすることである。

 闘病計画の下半期が今始まった。





 
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