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(3)ドル本位制はどう変わるか?

●2007秋、サブプライム・ローンは世界経済に暗雲を呼び起こした!
 ドルが金本位の裏づけを失い、国際通貨制度に変動相場制が採用されてから、既に30年以上の年月が流れている。ドルは、その間、他の主要国の通貨に対して傾向的に低落傾向が続いている。この30年の間、世界経済における機軸通貨としてのドルは、常に大きな相場変動にさらされてきたが、依然として現在もその位置を保ち続けている。

 その理由はいろいろ考えられるが、第1は、アメリカが政治的、経済的にいまなお、世界における第1位の位置を占めていることにある。
 また第2には、第2次大戦後に作られたIMFや世界銀行などの国際経済のしくみが、実質的に依然としてドルを基軸にしていることが挙げられる。
 さらに、第3として、ヘッジファンドのような国際的な投機資本が、本拠は税金のかからない島々に本拠を置きながらも、活動の拠点は依然としてアメリカを中心にしたドル圏にあることが挙げられる。

 しかしこれらのドル本位制を支えてきたアメリカ経済の基盤は、非常に弱体化しており、その次の世界が見えないことから、世界経済は極めて神経過敏になってきている。
 その矢先の2007年秋、このところ比較的快調であったアメリカ経済が、低所得者向けの住宅ローンであるサブプライム・ローンの焦げ付きやそれに関るローン会社の破綻が明らかになり、急速に失速の気配を色濃くし始めた。

 これら低所得者向け住宅ローンは、最近のアメリカの住宅ブームに乗って業績を伸ばしてきたものの、地価下落や金利上昇を受けて、急速に焦げ付きが急増し、それに加えて、住宅価格の低下、融資の縮小など、日本のバブル崩壊期にも似た状況が、みられるようになってきている。
 FRB(米連邦準備制度理事会)前議長のアラン・グリーンスパン氏は、87年のブラック・マンデーの直前に議長に就任した人物であるだけに、最近の国際金融の状況が87年におけるブラック・マンデーの大暴落の頃に非常に似てきたことに対して、深い懸念を表明している。

 1987年のブラック・マンデーの大恐慌と、その10年後の1997年5月にタイから始まったアジア通貨危機が全世界的に広がり、日本でも北海道拓殖銀行や山一證券がつぶれ、殆ど恐慌の直前までいったことは我々の記憶に新しいところである。
 それからさらに10年をへた2007年秋、サブプライム・ローンによる全世界的な通貨危機の予兆は、極めて不気味な様相を呈しつつある。

 2000年代に入り、異常な低金利政策が続く日本から資金を調達し、高利のドル圏でそれを運用して利益を得る「円キャリー」という商法が定着していた。これに冷水を浴びせたのが、サブプライム・ローンの危機であった。
 これにより膨大な投機資金が、ドルから円に逆流を始めた。このため急激なドル安、円高が進行しており、87年のパニック再来の可能性が濃厚になっている。

 驚いたFRBは、ただちに金利の引き下げと通貨流動性の全面的提供に踏み切った。また日銀は予定していた07年7月の金利引き上げを見送り、ぎりぎりのところで世界的金融危機に発展する事を回避した。
 しかしまだ10月の段階では、ドル・円レートはジクザク相場が続いており、いつ本格的なドル安に突入するか分からないデリケートな状態にある

●ドルの次に来る国際基軸通貨は何か?
 世界経済を事実上支えている機軸通貨のドルが、このように変動する状況では大変困る。そこで20世紀後半の国際通貨制度は、ユーロなどで代表されるように、ドル本位制の次の時代を模索して動きつつある
 国際通貨制度の将来像は、国際的な政治・経済の力関係が複雑にからむ真に難しい問題であるが、21世紀の前半期には、ドル本位制の次にくる時代の機軸通貨についての結論を、出さざるを得ないであろう。

 ▲ドルとユーロの複本位制
 まず最もありそうなことは、21世紀の初頭、ドルに対してユーロが機軸通貨としてのウェイトを増して、ドルとユーロの複本位制になることである。
 現に、上記のサブプライム・ローンによる為替変動を見ても、初期にはドル、ユーロ共に通貨価値が落ち込んだものの、その後、ユーロは堅調に推移しており、ドルに代わる国際通貨としての信頼性が強くなってきている。

 しかしユーロがドルに代わる機軸通貨になるためには、イギリスのポンドをユーロに取り込み、さらに、現在ユーロへの加盟が予定されている北欧、東欧の国々を含むヨーロッパ全体の通貨圏を、ユーロで統一する必要がある。それにはまだ10-20年の年数がかかるであろう
 とすればその間、ドルに対する補助的な機軸通貨として、ドルとユーロの複本位制になる可能性が高いと考えられる。今回のサブプライム・ローン問題が本格的なクラッシュに発展するかどうか、今の段階ではまだ不明であるものの、もしクッシュに発展すれば、それがユーロ・ドルの複本位制の始まりになる可能性は、高いと思われる。

 ▲元、ルーブル、ルピー、レアルの登場
 機軸通貨になる最大の条件は、その通貨の世界経済に占めるウェイトが大きいことである。その意味で、21世紀の前半期に世界の通貨の状況は、20世紀に対して大きく変貌する事が考えられる。それは20世紀には、世界経済から殆ど無視されていたBRICS(B:ブラジル、R:ロシア、I:インド、C:中国)などの諸国が、無視できない経済力をもち始めるからである。

 まず14億人という世界最大の人口を擁する中国のGDPは、「何処へ行く、世界」の「14.中国の政治・経済の行方(3) ―ケ小平・21世紀の夢!」で書いたように、9%の成長率が今後も続けば、2020年にはそのGDPは54.2兆元になる。
 これを中国の実力レートを6.88元/ドルとして計算してみると、7兆8780億ドルになり、2010年代に中国は日本のGDPを抜いて世界第2位になる

 現在、中国の通貨である「元」は国際通貨ではない。そして日本の通常の経済統計からも外されているほどである。しかし国内総生産の規模が世界第2位になれば、当然、国際貿易の規模も世界で1,2位を占めることになる。
 そして中国の通貨「元」は、2010年代には国際通貨として無視できないものになる
 さらに2050年ごろには、中国の経済規模はアメリカやEUをぬいて、世界第1位になる可能性が強い。

 またインド経済についても、「何処へ行く、世界」の「15. 大国インドの登場 −変貌する21世紀世界の勢力地図」で書いた。そこでは、現在の年率6%の経済成長が持続すれば、2050年におけるインドのGDPは10兆ドルに拡大する。それは現在のアメリカのGDP規模に匹敵する大きさである。

 つまり21世紀前半期の終わり頃には、中国、インド、ロシア、ブラジルなどBRICS諸国の経済進出により、世界の経済勢力の分布は大きく変貌することが予想される
 そのような状況の中で、19-20世紀の世界経済を支えたヨーロッパのユーロとアメリカのドルが、機軸通貨の位置を保つことが出来るかどうかは、当然、大きな問題となるであろう。

 ▲IMFのSDRなどの利用可能性
 また特定の国の通貨ではなく、IMFなどの国際機関における会計単位として利用されているSDR(Special Drawing Rights:特別引出権)のようなものが、機軸通貨の代わりに登場することも考えられる。
 このような抽象的な会計単位を、国際通貨に代わるものとして設定することは、特定国の利益を排除する面で利点はあるが、抽象的な貨幣単位は馴染みにくいとする反対も考えられる。

 いずれにしても、ドル本位制に続く国際通貨体制をどのようにするかは、21世紀前半期における世界経済における最大の課題になると思われる

 ▲円の位置付け
 最後に、「円」の国際的な位置付けが問題となる。残念ながら日本は全く資源のない国である上に、21世紀の中ごろには、人口が現在の半分くらいの6千万人あたりまで減少する可能性が高い。
 人口はGDPの源泉をなすことを考えると、日本の「円」が国際通貨になる可能性は、果てしなく小さいと考えざるを得ない。       (おわり)






 
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