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  (2)構造偽装を何故発見できなかったのか?

●検査システムの問題 ―建築検査と品確法はなぜ機能しなかったか?
 従来、日本は地震国であることから、昭和25(1950)年に建築基準法が制定されて以来、特に構造上の安全に関する設計、施工、検査の体制は世界に誇るものと思われてきた。その上、1999年6月には、10年間のカシ担保責任を明確にした住宅品質確保促進法(「品確法」)まで成立(2000年4月施行)した。

 品確法の登場により、日本の住宅産業における品質保証体制は新しい段階を迎えたとされている。これにより「住宅性能」の表示基準が設定され、その基準に照らして住宅の性能を国が指定した評価機関が評価することにより、その評価結果を「住宅性能評価書」として交付する制度が作られた。
 これにより国家が品質を保証した住宅が、国民に供給されるはずであった。ところが今回の構造偽装問題の発覚により、この住宅の品質保証制度も全く形式的で無力であることが暴露された
 それにより住宅の品質保証体制は、まさに戦後の出発点にまで戻ってしまった。それほど今回の事件の衝撃は大きい

 品確法では住宅の「新築工事の建築請負人」と「新築住宅の売主」に、住宅の構造耐力における主要な部分等のカシに対して、引渡しから10年間のカシ担保責任を負うことが規定された。すでに住宅を含む建築一般の品質確保について、建築基準法による詳細な規定が存在している

 つまり建築基準法と品確法により、建築のカシは完全に担保されるはずであった。
 住宅建築の場合、工事着手前に行政に申請して、建築主事による敷地、構造、設備の適法性の確認を経なければ、工事に着工することもできない。
 さらに、工事着工後も、型枠、配筋、鉄骨など構造部分には検査があり、その上、竣工後にも、法令で定められた建築士の工事監理者による、設計図書通りに工事が行なわれたことの確認検査がなければ、自分の建物でも使用することができないことになっている。

 それに加えて、品確法では住宅の「新築工事の建築請負人」と「新築住宅の売主」に、住宅の構造耐力における主要な部分等のカシに対して、引渡しから10年間のカシ担保責任が規定された

 そこに晴天の霹靂のように登場したのが、今回の耐震強度偽装問題である。調べてみると、姉歯建築士が作成した法定耐力の2〜3割しかない構造設計による確認申請は、みな検査機関の審査に合格しており、合法的なマンションとして販売され、多数の人が入居していた。ところがそれらのマンションの多くは、震度5程度の地震でも倒壊のおそれがあり、ついに川崎市では退去命令が出されるマンションまで登場した。

 その上、品確法による「住宅性能評価制度」による設計評価書が交付され、10年間の性能が補償されたはずのマンションまで、耐震データの偽造が発覚している。品確法による品質保証の信頼性は崩壊し、従来の品質を確保するための法律は、建築基準法まで含めてすべて見せかけのザル法であることが明らかとなり、国交省は強い衝撃を受けた。

●構造偽造問題は、企業グループによる組織的犯罪?
                 −品質保証における「組織」の問題

 姉歯建築士は、鉄筋数量を大幅に少なくした構造計算書と設計図面を直接作成したことから、構造偽造問題の中心的な悪者にされている。この姉歯建築士の責任の重要性を否定するつもりはないが、問題はそれほど単純ではない

 この構造偽装は、マンションではヒューザー、ホテルでは総合経営研究所が組織の中心となり、平成設計が建築計画を作成し、その下に、構造、意匠、設備設計者がそれぞれの役割を担当し、施工を木村建設が受け持つという企業グループにより、遂行されたようである。
  
 「コストダウン=売主の利益向上」に占める鉄筋コストの比重が大きいため、姉歯建築士が脚光を浴びたが、組織の中では、姉歯氏は構造設計の下請けの1担当者にすぎない。
 偽装はマンションでは売主のヒューザー社、ホテルではコンサルタントの総合経営研究所が企画し、平成設計と木村建設が建設の中心になる企業グループの「組織的犯罪」であった。もし姉歯氏が組織の意向に逆らえば、いつでも他の構造設計者に取り替えることが可能であったし、事実、そのようなことを姉歯氏自身が発言している。

 この場合、設計者の独立性を確保すれば品質保証が出来るとする説もあるが、組織の善悪ではなく、全体の指導的立場にあった総合経営研究所やヒューザーの方針が間違っていたことから、今回の問題は起こっていると考えられる。

 しかしこのような品質保証を無視した利益優先の方針は、民間企業には必ず出てくる可能性がある。従って、どうしても第三者の立場に立つ検査機関の存在が必要になる。この検査機関が、今回の問題では全く機能しなかったことが、問題を大きくしたといえる。

●検査機関の責任
 今回の場合、何人もの建築技術者が関わりつつも誰もその異常性に気がつかず、何年もの間、全国的に同じグループによる構造偽装が行なわれてきた。
 そのこと自体が、建設業で特に技術的な仕事をしてきた者からみると、信じがたい異常なことに思われる。
 特に検査における「建築主事」の技術的・社会的責任感の欠如は、殆ど犯罪に近い!そこで公式の建築物の検査責任者として、現行の建築基準法における建築主事の役割の問題を考えてみたい。

 技術偽装の原因が、(1)建築関係者の技術的未熟にあったのか? (2)それとも知っていながら知らないふりを続けた無責任さなのか? (3)それとも利益確保のために偽装を承知で行なった犯罪なのか?
 そのことを近い将来、司直の手で是非、明らかにしてほしい。私の想像では、そのいずれかではなく、そのすべてであったと、今は考えている。

 問題は、民間の企業や組織では、何時の時代でも利益のために違法を行なう者が必ずいると考えられることである。そのためその被害を未然に防止するために、公的な検査員による検査がどうしても必要になるわけである。

 今回、この公的な検査員による検査が、全く機能しなかった。その意味では、当事者の意識は別にして、今回の事件における検査関係者の責任は、構造偽装を行なった人々と殆ど同程度に重いと考えられる。さらに、この仕組みを作った国の関係者も同罪である。

 本来、このような組織的犯罪を事前にチェックするために、建築基準法の第12条による検査が存在していた。この建築検査は、従来、建築基準法第4条により国が定めた「建築主事」によって行なわれてきた。
 しかし1995年の阪神・淡路大震災により多数の建築物が倒壊したことから、従来、少人数で行なわれてきた建築主事の検査業務をより充実させるために、民間の検査機関にもこの検査業務を委託することになった。

 今回、この建築主事の検査業務を行なったのは、民間の検査機関のイーホームズと日本ERIであった。さらにその後は、自治体の検査に合格した構造偽装物件も多数出てきており、問題は民間の検査機関に限らないことも明らかになってきた。
 検査を自治体が行なおうと、民間の機関が行なおうと、その検査の過誤の責任は建築主事の職能、つまり「国」にあることはいうまでもない。

 国家賠償法第1条1項の規定を、参考までに次にあげる。
 「国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が、その職務を行なうについて故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。(第2項略)」

 今回の事件は、何の罪もない被害者の救済を考えると、この法律の対象事例と考えるべきではなかろうか!




 
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