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脳卒中の記録
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  (20)血圧の分析とセカンド・オピニオン(1)

★3度目の秋
 アメリカの9.11事件から3年たった。あの衝撃的な事件の翌月、私の体の中でも衝撃的なテロ事件が突発した。その時期が一緒であるために、放っておいても新聞やTVが私にその時期がめぐってきたことを教えてくれる。

 昨年(2003)の10月には、夏に下がっていた血圧が再び上昇傾向を見せ始めており、朝9時の測定では142-87という高い平均値になった。そこで毎日の歩行距離を1キロから2キロに伸ばしたら、その効果は劇的に現われて毎月の平均値では最も寒い季節の2004年2月の段階でも141-84に抑えることに成功した。

 脳卒中の患者にとって再発防止は最大の課題である。その状況が、2004年の秋になってその状況が大きく変化してきた。それは、8月の月平均が128-75まで落ちていた血圧が、9月になって更に120-78という低い数値まで低下し、特に最高血圧は8-9月の1ヶ月で8ミリも下降したことである。

 しかし血圧は、ただ下がれば良いというものではない。血圧が下がった一方では、毎分60台で安定していた心拍数が、8月の下旬から急に80台に跳ね上がった。
 これはただ事ではないと考えて、9月のはじめに総合病院の循環器科へ自分の血圧の詳細な記録データをもって相談に行った。
 結論からいうと、薬餌医療を中心にした現代の病院では、このようなデータをもって相談にくる患者に対して、医師は適切に対応する機能をもっていなかった。

 医師は私の血圧記録を殆ど見もしないで、不整脈があることから脳梗塞予防のためにバッファリン系の薬を飲むことを私に勧めた。ちなみにバッファリンとは、血液を凝固し難くする薬である。

 2001年10月に脳梗塞でこの病院に入院したとき、私は脳梗塞のストレスから持病の十二指腸潰瘍を再発した。これに対してバッファリンを点滴していたために大量に出血した。
 しかも、そのことについて血液検査を何度もしていながら、担当の医師は長い間、気がつかなかった。担当外の女性の医師が私の貧血が続いていることに懸念を表明したことから、ようやく消化器科で胃カメラ検査を行い、十二指腸の出血がわかった。

 ことごと左様に、現代の大病院の医療体制は、いろいろ新しい機器を使っているものの、その内幕は担当科ごとにバラバラで統一された横の医療体制は殆どない。その状況は発展途上国、もしくはそれ以下のレベルであることが分かってきた。
 私は今年の2月に眼底出血をしている。その状態でバッファリンを飲んだら、脳出血を引き起こすおそれがある。急激に進行している高齢化社会の中で、われわれは自分の体は自分で守るしかないのであろうか? とつくづく思った。
 自分の健康管理は、いまはやりの言葉でいえば「自己責任」の領域に属する事かもしれない。そこで私は血圧と心拍数の分析を自分で行うことにした。

心拍数の上昇
心拍数の上昇グラフ


★血圧と心拍数の時系列分析
 自分の血圧と心拍数がどのような状態にあるかを知るには、自分の過去のデータに聞いてみるのが最も良い。そこで退院以降の血圧と心拍数の分析を行うことにした。
 時系列データの分析は、トレンド(趨勢)、サイクル(周期性)、ランダムネス(不規則性)の3つに分けて分析してみるのが普通である。そこで、まずトレンドの解析を行った。

●血圧のトレンド
 私の血圧は退院以降、低下の傾向を辿っていることは既に分かっていたが、それが具体的にどのような数値を取っているかを分析してみた。
 分析方法には、年、時期(1-6月、7-12月)、時刻(9時、15時、21時)ごとのデータについて多変量回帰分析の方法を採用した。
 その結果は、以下のように非常に興味あるものになった。

 まず、変数X(1)は、西暦2000年代の一桁を採用し、2001年を1、同じく2002年を2として表すことにした。また変数X(2)は、1年のうちの上期(1-6月)を0、下期(7-12月)を1とした。更に、変数X(3)は、1日の時刻を24時間表示で表現することにした。

 なお計算に当っては、時刻のデータの傾向が非線形になることから起床時の7時を除外して、時刻の変数の観測値は、9時、15時、21時の3点のデータを利用した。

 最高血圧をY1,最低血圧をY2とすると、次式が得られた。
 Y1=-7.3333X(1)-6.8888X(2)-1.3333X(3)+185.222    R=0.9447
 Y2=-3.5333X(1)-1.4888X(2)-0.83333X(3)+106.986   R=0.8821

 この式を見ると、2000年上期の午前0時における最高血圧は185.2, 最低血圧は107.0という高い数値が出発点になっている。この時点は脳卒中を発症する以前の段階であり、この時点で実際に観測されたデータはない。しかし当時は血圧降下剤をまったく飲んでいなかったため、実際に観測したら、これより遥かに高い数値を示したと思われる。

 さて上式を見ると、2000年以降、年、期、時刻とも変数のパラメータはすべてマイナスの数値をとっている。このことから、時間の経過とともに血圧は傾向的に低減してきていることが分かる。

 血圧低下のスピードは、この式によると、なんと最高血圧が1年に14、最低血圧は1年で5ずつ下っている。しかもこの推定式の適応度は、相関係数(R)が完全相関を示す1にかなり近い数値を示しており、理論値は実績値と極めて近い数値であることが分かる。
 データを取り始めた2002年上期以降の9時時点の計算値と実績値を比較したグラフを次に揚げる。

血圧のグラフ

●血圧のサイクル
 トレンドは、上図のように下がり勾配にあるが、当然、血圧はこのまま傾向的に下がり続けるものではない。この下降傾向は、やがて横ばい、ないしは上昇に転じる変極点がくるであろう。
 その変極点がどこにくるかを次に分析してみよう。

 血圧の時系列の波がどのような周期をもっているかの分析には、血圧の時系列データX(I);I=1,2、・・・、nの自己相関係数r(k);k=0,1,・・・、mを求めて、コレログラムに表してみると良い。
 コレログラムは、次のような曲線で表される。

血圧のコレログラム
 

 上図の横軸は0から始まるものであり、若干修正して見て頂きたいが、大体、14-15期のあたりで自己相関係数が、再び最初の1に近づいていることが分かる。
 これが血圧データの周期性を表す数値である。

 常識的には血圧の周期は、春、夏、秋、冬の四季で変化することから、私もこの分析を行う前までは、1年=12ヶ月の周期で変動していると考えていた。しかし私の場合、それより長い14-15ヶ月周期で変動しており、その中間にも変極点がある。
 つまり血圧変動は、四季の季節変動の影響を受けていることは勿論であるが、その他に、1-2ヶ月遅れた14-15ヶ月の周期性をもった血圧変動にも注意する必要があることになる。

 この観点から過去のデータを調べてみると、興味深いことが分かる。それを月別に整理してみると次のようになる。

2001年10月 脳卒中発症
2002年6月 脳卒中再発の疑いで再入院(その間、8ヶ月)
2003年2月 原因不明のストレス高まり、就寝時の心拍数が過去の最高値を記録。(その間、8ヶ月)
2003年10-12月 冬季に向かい血圧上昇、12月、エコノミー症候群を経験(その間、8-10ヶ月)
2004年8月 血圧は低下したが、平均心拍数が20も急上昇。(エコノミー症候群から8ヶ月)


 私の体の上に大きな変動をもたらした時点は、発症のときから8ヶ月の倍数で起こっていることが分かる。その原因は今の段階ではよく分からないが、1年の季節周期とは別に2年で3回まわる周期性が私の体の中にあるようである。

 この原稿を書いている現在時点、つまり2004年10月は、発症の時から数えて、季節性のサイクルと、体内の8ヶ月サイクルの谷がちょうど一致する時点にある。そのため十分な注意が必要な月になると思われる。
 このところ、心拍数はかなり高い数値に上昇しており、2004年10月が要注意の月であることは間違いないようである。
       
●血圧のランダム変動 ―台風と血圧・脈搏
 トレントとサイクルに乗らない変動をランダム変動という。この変動の原因は、全く分からないものも多いが、思い当たるものも少なくない。

 かつて中央気象台長をつとめた気象学者の藤原作平という人が、気象医療ということを提唱したことがある。このことから東大の物療内科に気象医学というものが発足した。その後、気象医学の系譜がどのような道筋をたどったか知らないが、私の血圧や心拍数のランダム変動の一部は、どうやら2004年秋に日本列島に頻繁に上陸した台風と密接に関係していることが分かってきた。

 今年は、日本列島は台風の当り年であった。調べてみると、台風が上陸を開始した7月下旬頃から、従来60-70台で安定していた私の最低血圧が、急に80-90という高い数値になった。しかしそれだけで血圧変動の原因を台風のせいにすることはできない。私が台風と血圧や心拍数の関係を疑い始めたきっかけは、いくつかあった。

 最初気がついたのは8月の下旬のことである。私の血圧や心拍数が突然乱れ始めた。特に60-70で非常に安定していた最低血圧は、8月の中旬から80台の後半を記録し始めて、下旬にはいると90台という夏には見たこともない数値をつけることがあった。
 しかもこの変動が、どうも台風と関係するらしいことに気がついた。
 そこでさかのぼって台風と血圧、脈拍の関係を調べると、どう見ても台風がランダム変動の犯人の一人と考えざるを得なくなってきたのである。

 2004年の夏は、特に東京では雨が全く降らない日照りが続いた。そこへ7月29日に台風10号がきて、7月では初めての激しい雨となった。この日の15時に私の血圧は、7月中における最高値の151-87を記録した。
 ちなみに7月の平均値は128-74であり、明らかにそれは異常値であった。更に、脈搏は前日の9時に71になった。7月に70台を観測した例は殆どなく、大体、50-60台で推移していた。

 8月11日には台風13,14号が発生して、東京は冷たい風雨に見舞われた。このときには脈搏に特に変化はなかったが、血圧は8月12日に150-90に跳ね上がった。ちなみに8月の平均値は、128-75であり、この数値はいかにも異常値である。
 また8月23日から8月末にかけて台風16,17号が日本列島を襲った。このときの血圧は、最高値の方はさほどの影響を受けなかったものの、最低値のほうは久しく記録されたことにない90台がたびたび観測される異常事態になった。

 特に台風16,17号が日本列島を襲った8月末には、今まで非常に安定していた心拍数が大きく乱れ始めた。8月21日までは50-60という数値を示してきた心拍数は、16,17号が本土に接近した8月22日から80-100に跳ね上がった。
 9月5日には台風18号が日本列島に上陸して、心拍数が日中には90-100にまで上昇し、最低血圧も80-100という高い数値を記録するようになった。
 
 この間、最高血圧の方には特に顕著な上昇は見られなかったが、台風18号がきた9月7日の朝9時に最高血圧は152(前日は125、翌日124)をつけ、最低血圧は98を記録した。この血圧の異常値は2-3日続いた。心拍数も100前後の高い数値が台風前後の1週間ほど続き、台風の影響の大きさを実感した。

 台風の血圧などへの影響の大きさを意識し始めた9月23日朝の血圧測定では130を記録した。特に高い数値ではないが、通常の朝の数値は100-120である(9月の平均値は117)。もしや!と思って新聞を見たら、南太平洋に台風21号が発生していた。この台風は、9月30日に日本へやってきた。その日、血圧、心拍数が高くなったことは言うまでもない。

 2004年は、台風の当たり年であり、10月9日には22号が東京を直撃した。ここでも血圧、心拍数の異常値が観測されており、少なくとも台風は血圧、心拍数などのランダム変動の大きな要因であることはほぼ間違いないようである。

 10月13日の朝には、起床時に135を記録した。12日100, 14日104である。この日、日本から数千キロ離れた南太平洋で台風23号が発生した。この大型台風は20日に高知県に上陸して、首都圏を直撃した。明らかにこの影響を受けた血圧・心拍数が観測されており、台風が人体へ影響することは、ほぼ確実であると思われる。

●心拍数のトレンドとサイクル
 心拍数には、血圧のような明確なトレンドは見られない。血圧と同じような多変量解析を試みた結果は次式のようになった。
     Y=-1.13333X(1)+0.0444X(2)-0.05X(3)+75.7  R=0.237
 Yは心拍数、X(1)は西暦年の1桁、X(2)は上期0、下期1、X(3)は時刻である。
 相関係数が、0.237と非常に小さく、トレンドは殆ど存在しない。一応、計算値と観測値を比べて見ると次図のように、実績値は非線形の変動をしている。

 このグラフからも明らかなように、心拍数のデータには6ヶ月*6=3年くらいの波があるようであり、この波動の検証には今後1,2年の観測が必要のようである。   
 心拍数には、このような大きな非線形の波動があるため、線形の多変量解析の適応度は悪い。

 3年の長期波動の解析には5年程度のデータが必要である。そのため、現在時点ではまだ無理であり、もう少し小さい波動の解析をコレログラムで行ってみる。
   

 血圧の場合と同様に、横軸は一つずれるので、心拍数の周期はほぼ12ヶ月であり、季節のサイクルと考えてよい事が分かる。その上に、3年の長い周期性をもったサイクルがあり、今後はその検証が必要になる。
 2004年8月末から突然上がり始めた私の心拍数は、一時は90-100という高い数値を示すことになったが、その後、平均70-80という水準で高止まりの傾向を見せており、次の長い波動の山に向かい始めたことを感じさせる。
 これらの分析を通じていろいろなことが分かってきた。しかし血圧と心拍数の時系列分析を総合的に行うには、あと1年ほどの時間が必要のようである。

 そこで2005年の秋に今一度、総合的な分析を試みてみたい。しかし今の段階においても、脳卒中という病気の原因として高血圧はその一因子にすぎず、心臓の不具合などが複合している可能性が非常に高いと思われるのである。
 それにも拘らず、現代の医学の体系では、医療の領域を脳神経科、循環器科というようにバラバラにしているために、病気の真の原因を総合的に考えることができなくなってきているように思われる。

 そのために病気の治療は、その原因の除去ではなく病気の結果に対する「応急対策」に重点が移ってしまっている。更に医学の体系は、総合化よりは益々細分化の方向へ向かいつつある。
 そのため現代医学の根本的改善は、それに気がついても最早どうしようもないところにその悲劇があるように私には思われた。このような絶望感に襲われていた時、日本の医療においても最近になって、新しい波が寄せ始めていることを知った。




 
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